ITmedia NEWS > 社会とIT >

アダルトVRでアダルトCD-ROMの仇は討てるのか(2/2 ページ)

» 2016年07月02日 21時39分 公開
[納富廉邦ITmedia]
前のページへ 1|2       

 VRといっても、それはパソコンの画面の中で、マウスクリックで部屋を移動したり、視点を動かしたり、マウスカーソルでおっぱいを弄ったりするだけ。そして、物語はフラグによるストーリー分岐と、せいぜいキーボードによる短い会話程度。しかしクリックすると相手の反応が変わり、クリックすると風景が変わる、それらのコンテンツは、アダルトコンテンツがユーザーに対して行う最初のハードル、「その気にさせる」という部分をクリアするのに充分な仕掛けだったのだ。

 それは、システムではなく、システムをどのように使ったらユーザーは入り込んでくれるのか、という部分の設計。つまりシナリオと演出の見事さだ。多くのマルチメディア作品が、「ここまでできる」という技術を見せるためのデモに留まる中、アダルトコンテンツは、もちろん、単にAVをそのまま移植しただけのものが大半ではあったが、一部のメーカーの愚直とも言えるエンターテインメントとしてのエロの追求によって、面白いタイトルが生まれていたのだ。マウスクリックの馬鹿馬鹿しささえも、「こんなことしてる俺ってなんなんだ」という意識をシナリオの中で反転させるような技を使ったり、裸やセックスだけでない部分にエロを感じさせるストーリーを作ったり、パソコンの中という枠も演出に組み込むなど、あらゆる手段で面白い作品を作っていた。

 それは、高橋伴明監督や神代辰巳監督、黒沢清監督や周防正行監督を生んだにっかつロマンポルノの現場に近かったかもしれない。エロさえ入れていれば何をやってもオッケーというような自由さから生まれる異形のようなコンテンツ。映画にせよ、マルチメディアにせよ、セックスの代わりは出来ない。マルチメディアのアダルトCD-ROMには、オナホールと連動する製品などもあったけれども、求めているのはその方向ではなかった。エロは物語を、感情移入を進めるための道具として、全体でエロも含む面白い体験を提供しようという試み。それが、マルチメディア時代のアダルトコンテンツだった。

photo CD-ROMアダルト「Virtual Vallerie 2」の作者はマイク・セインツ。CD-ROMインタラクティブタイトルの代表作である「Spaceship Warlock」作者の1人でもある

 当たり前だが、それでは多くの、ただ抜きたい、ただスッキリしたい人に受けるはずもない。アダルトCD-ROMはDVDの時代には、単にマルチアングルを提供する程度の、AVと同じ、単に見るだけのメディアとなり、さらにインターネットで配信され、結局より手軽に見られるAVコンテンツに落ち着いた。製作コストを考えても、AVに出演する女の子たちの容姿や技能、AV女優としてのプロ意識などが格段に向上した現在、彼女たちを正しく使って良質なアダルトビデオを撮る方が、ユーザーの目的にも合い、映像的にも良いものが出来るのだから、そっちの方が良いに決まっている。

VR生中継に見えた可能性

 ではアダルトVRは、どの方向に向かうのだろう。「アダルトVRフェスタ01」でCGによる同人系の作品を体験した友人は、「CGの中に入れば自分もCGになるし、実写の中に入れば自分も実写の感覚になるから、興奮の度合いに対して差はない」と言った。それはそうだと思う。ドラゴンクエストの面白さが画像がキレイになったことで大幅に向上したりしなかったのと同じだ。人間の感覚は簡単に、事実を補正する。そして、エロは、それが実際のセックスでさえ、脳内ファンタジーに簡単に置き換わる。むしろ、ファンタジーとして享受した方が気持ちよかったりする。

 VRJCCの「なないちゃんとあそぼ!」の、ビニール製の人体にiPhoneを貼り付けることで、ジャイロセンサー付きの人形に仕立てるアイデアなどは、個人的にとても好きだし、そういう発想の積み重ねこそが面白いエンターテインメントを生むと信じているが、その方向がセックスの代わりになるものでいいのか、という気もするのだ。それはVRの映像によってエロファンタジー方向に向いた意識を、現実に引き戻すのではないかと思うのだ。

 人間の脳は意外に適当で、一人称視点のAVが途中で別の角度からの女の子のアップに切り替わっても、それほど気にならないどころか、女の子の表情がきちんと見えた方が興奮したりするのだ。それまで男優さんの立場で見て感情移入していても、カメラが切り替われば、自分は簡単にカメラになって感情移入を続けることができる。これを頭の中で自然にやってしまうのが人間なのだから、バーチャル空間がどれだけリアルであっても、こと「興奮する」という意味では、2次元の映像に対してVRは、それほど大きなアドバンテージはないかもしれないのだ。

 個人的には、「アダルトVRフェスタ01」に出ていた、VR視点の生中継映像を体験できる「リアルタイムプレビュー」に、新しいエロの可能性を感じた。隣の部屋にいる女の子とVRで会話し、エロいことをして、でもそれはバーチャルで、でも実際に当人は隣の部屋にいて、という倒錯感は何だか興奮するのだ。VRのリアリティと、妄想によるエロのハイブリッドとして面白そうだと思うのだけどどうだろう。

 また、単純な話だが、ヘッドマウントディスプレイによる没入感は、エロにとって強い味方だ。アダルトCD-ROM当時、ジャイロによるセンサーとヘッドマウントディスプレイが用意できれば、それだけで相当エロいタイトルは出来たはず。パソコンの画面は、没入するには距離があり過ぎた。ハコスコの目とiPhoneの距離でさえもどかしく感じるのだから(もどかしいということは、十分に興奮しているということでもあるが)。

 いずれにせよ、テクノロジーだけではアダルトコンテンツは機能しない。ただ、アイデア次第でCD-ROM以来の、新しいエロが生まれる可能性のある技術だというのは間違いない。ここから新しい才能が登場するかもしれない。また、触覚関係のインタフェースさえ整えば、セックスの代わりさえ務まるだろう。体温を伝えるためのボディスーツと、オリエント工業のラブドールを組み合わせたVRコンテンツなら、かなり早い段階で実現しそうな気もする。

 口でしてもらう際の顔が遠くて表情が見えない問題は、実際のセックスでも起こっている問題だし、VRだからこそ現実にとらわれてしまう不便というものも既に見えてきてはいるけれど、それでも、8月に開催されると言われる「アダルトVRフェスタ02」が待ち遠しい。

photo 入場希望者が多すぎて中止となった第1回の反省を経て、「アダルトVRフェスタ02」はチケット事前購入制に
前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.