――漢字を入れてヒグミンを「Adobe Japan 1-4」(アドビの文字集合規格)以上のフォントセットに展開する計画はありますか?
西塚氏 実は漢字も挑戦していたんですよ。でも、ヒグチさんに原字を描いてもらうというのは彼女の仕事量的には不可能なので、私の中にヒグチユウコさんを降臨させて、複雑に変化する漢字を描かなければならないことになります。そうなると毎日作っても5年はかかっちゃいます(笑)。
そこで、今回は組み合わせる漢字は秀英初号明朝に頼ることにしました。フォントはあくまでも商業デザインなので、フルセットのフォントが有効かどうかということも考えなければなりません。ですから今回は、かなフォントにとどめました。ただ、今回は欧文も丸ごと作りました。これは私にとって初めてのことです。
――ヒグミンが動いて動画(アニメーション)になるフォントにまで進化する可能性はありますか?
動画向けのフィーチャーですか……。実はバリアブルフォントで動画のように動くものはすでにあったりします。何もないところからエレメントが伸びたり縮んだりして、アニメーションのように動かすことも可能です。実際に制作されてる方は国内外にいらっしゃいます。でも私が関わるとそれだけで2年はかかっちゃいますね。それよりも、明朝体でもゴシック体でも、小説に組めるようなしっとりとしたフォントを
アドビオリジナルフォントとして作りたいと思っています。クラシックでスタンダードなフォントなんだけれども、バリアブルな機能として、何かを変化させたり、アドビらしいものができたらなあと思っています。
――小塚明朝ならぬ西塚明朝を期待しています。
西塚氏 (笑って)どうですかねぇ。うまくいくといいんですがねぇ。
――最後の質問です。西塚さんにとってフォントを作る楽しみと原動力は何ですか?
西塚氏 本当に不思議なのですけど、フォントのプロトタイプを作って、その文字を自分で入力して文字が出たときの感動がすごくて、やめられない感じです。自分が作ったものが一度手が離れて、それがまたコンピュータの中で生き物のように現れてくる感覚があるんですよね。これって、タイプデザイナーの方にはよく分かってもらえます。製品をお届けする段階になるともう「お仕事」って感じですが、プロトタイプを作っているときは本当に楽しいです。
インタビューを終えて感じたのは、仕事という枠組みを超えたワクワクする楽しいプロジェクトだったのだなあということ。そしてフォント完成へのお祝いの気持ちだ。
フォントデザイナーとして大好きなアーティストと組み、製品として世に出すことを実現した西塚氏。次の目標はインタビュー中にもあるように、偉大な先人のタイプデザイナーたちに負けないスタンダードな書体のようだ。数年後に登場するかもしれない、西塚氏の新しいフォントに期待したい。
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