電力会社を使わなければ、電気料金は下げられる連載/電力を安く使うための基礎知識(7)

東京電力や関西電力が電気料金を値上げしたことに対抗して、電力会社を使わないでコストを削減する試みが企業や地方自治体の間で広がってきた。電気料金の安い「新電力」と呼ばれる電気事業者へ契約を切り替えるなど、選択肢はいくつかある。

» 2012年06月11日 10時26分 公開
[石田雅也,スマートジャパン]

 神奈川県の横須賀市が6月で東京電力との契約を打ち切り、「新電力」のエネットからの供給に切り替えたことは、地方自治体として画期的な試みと言えるだろう。これによって横須賀市は市内の学校72か所で使う電力のコストを、年間で2000万円以上も削減できると見込んでいる。

 「電気は電力会社から買う」という常識が崩れ始めた。これまで知られていなかった電力会社のコスト構造が明らかになり、いまや電気料金が割高に設定されていることは周知の事実になった。これを好機と見て、電力の自由化によって電気事業に参入した「新電力」が割安の電気料金を提示して、電力会社からの移行を促進している(図1)。

ALT 図1 電力の自由化による競争の構図。出典:経済産業省

 現時点で電力の販売が自由化されているのは「高圧」と呼ばれる主に企業が利用する契約に限られているが、政府は家庭や商店向けの「低圧」についても自由化を進める方針だ。太陽光発電やガスコージェネレーションの拡大によって一般の企業や家庭でも電力を作り出せるようになり、電力の売買ネットワークが一気に広がり始めている。電力会社以外から安く電力を購入する方法が現実味を帯びてきた。

「新電力」は基本料金が安くなる

 電力会社以外から電力の供給を受ける場合の形態は2通りが考えられる。使用する電力の全量を新電力などからの購入に切り替える方法のほかに、従来の電力会社との契約を残したまま複数の供給元を併用する方法もある(図2)。後者の場合にはコスト削減効果は小さくなるものの、電力を安定して使える利点がある。

 複数の供給元を併用することによって災害や事故の影響を小さくでき、リスク分散の点では有利だ。ただし学校のように夏の電力使用量が少ない施設であれば、停電時のバックアップ体制を整えておくことで、新電力からの供給ルートだけでも問題が生じる可能性は小さいだろう。

ALT 図2 新規事業者を加えた電力供給ルート。出典:エネット

 新電力でも発電に使う設備や燃料のコストは、基本的に電力会社と変わらない。同程度の原価がかかっても、内部のコストを抑えることによって、電気料金を安くすることができる。新電力の中で販売量が最も多いエネットの場合、燃料費に相当する部分は電力会社と同じレベルに設定して、基本料金や従量料金の単価を割安に提案する(図3)。

ALT 図3 「新電力」の電気料金イメージ。出典:エネット

 エネットが横須賀市と契約した内容を見ると、従量料金は東京電力と同額のままで、基本料金を約18%安くしている。原価が影響しない基本料金を大幅に下げた設定である。一般企業に対しても、このように基本料金の引き下げを提示するケースが多いとみられる。

契約電力が小さい場合は移行までに3か月

 電力会社から新電力へ契約を切り替えることになった場合、どのような手続きが必要になるのだろうか。最も多くのケースが想定される東京電力からエネットへ切り替える例を見てみよう。

 まず現在の電力会社と結んでいる契約の種類によって違いがある(図4)。契約電力が大きい「高圧大口」(500kW以上)の場合は、電力会社との契約内容が協議によって決められるので、契約変更の手続きは割と簡単だ。原則として電力会社に解約届を出せば済む。このため移行までの手続きは1か月程度で完了する。

 これに対して契約電力が小さい「高圧小口」(50kW以上500kW未満)では、基本料金が直近の12か月間の最大使用量によって決まる「実量制」になっているため、電力メーターの確認作業などが必要になり、それだけプロセスが多くなる。実際に新電力から供給を受けられるようになるまで3か月程度の期間がかかるようだ。その手間に見合うだけのメリットを得られるように料金の交渉を進めたいところである。

ALT 図4 「新電力」を利用する際の契約プロセスの例(東京電力からエネットへ切り替える場合)。出典:エネット

毎日の電力を入札方式で売買できる取引所

 新電力のほかにも、安く電力を購入する方法がある。毎日の電力を入札方式によって売買できる「日本卸電力取引所」だ。この取引所は沖縄電力を除く9つの電力会社のほか、エネットなどの新電力を含む合計21社が基金を出して2003年に設立した。電力を30分単位で売買でき、取引の情報はウェブサイトに掲載される(図5)。

ALT 図5 日本卸電力取引所のウェブサイトに掲載される電力売買状況。(スポット取引の場合の1kWhあたりの単価と電力量)。出典:日本卸電力取引所

 取引できる会員になるためには条件がある。取引所の最低売買単位が1000kWhに設定されていることから、売り手としての発電能力あるいは買い手としての電力需要のどちらかが1000kW以上であることが必要条件になる。さらに加入時に100万円の保証金のほか、毎年60万円の会費を納めなくてはならない。相当な量の電力を売買できる事業者に限定されるのが現状だ。

 この取引所の中に2012年6月18日から、太陽光やガスコージェネレーションなどで発電した電力を少量でも売買できる「分散型・グリーン売買市場」が設けられることになった。この新しい市場では保証金や会費は不要である。

 ただし太陽光による電力は2012年7月1日から始まる再生可能エネルギーの「固定価格買取制度」によって、1kWhあたり42円という通常の電気料金の2倍程度の単価で電力会社が買い取ることになっている。

 取引所の新市場で売買される電力も同程度の単価になることが予想されるため、一般企業が電力を安く買う目的で利用するには向かないと考えられる。むしろ自家発電で余った電力を電気事業者に高く売るための市場と考えたほうがよさそうだ。高く売れた分だけ、全体の電力コストを削減することにつながる。

 ほかにも電気料金を引き下げる効果がある新しいサービスは続々と生まれている。特に今年の夏に向けて、電力の使用量を抑えることで利用企業に報酬がもたらされるサービスが登場してきた。次回に詳しく解説する。

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連載(8):「電力は使い切らない、余らせて売ってコスト削減」

連載(1):「料金計算の仕組みが分かれば、電気代をスマートに削減できる」

連載(2):「節電を1台でこなす、デマンドコントローラ」

連載(3):「節電対策の主役に急浮上、BEMSの費用対効果を検証」

連載(4):「蓄電池に夜間の安い電力を、今なら補助金も使える」

連載(5):「昼間の電力ピークカットには太陽光発電、価格低下で普及が加速」

連載(6):「導入企業が増えるガスコージェネ、電気と熱の両方を効率よく供給」

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