キーワード解説「バイナリー発電」キーワード解説

地熱や工場の廃熱を活用して、電力を作ろうという活動が盛んになっている。地熱は高温の熱エネルギーを得られるので、大きな出力を期待できるが、地中深くまで穴を掘った上に、大規模な施設が必要になる。「バイナリー発電」はもっと小さな熱エネルギーでも活用できる発電方式だ。

» 2012年09月21日 09時15分 公開
[笹田仁,スマートジャパン]

 バイナリー発電とは、熱エネルギーを利用して発電する方式の一種。地中から自然に得られる地熱や、工場の廃熱などを利用する。火力発電のように熱を発生させるために燃料を燃やす必要はない。

 ほかの発電方式とは異なり、比較的小さな熱エネルギーも利用できる点が特長。例えば地熱発電では、地中で沸騰した水の蒸気でタービンを回して発電する。水の沸点は100℃だが、大量の水を沸騰させて勢い良く蒸気を上げるにはさらに大きな熱エネルギーが必要だ。一方、バイナリー発電なら、蒸気が勢い良く上がるような環境でなくても発電できる。

 バイナリー発電機は、沸点が低い媒体を加熱、蒸発させてその蒸気でタービンを回して発電する。媒体としてはペンタン(C5H12。沸点は約36℃)が代表として挙げられる。

 タービンを回した蒸気は、冷却して再び液体に戻す。液体に戻ったら再び加熱して蒸気を発生させてタービンを回す。このように、バイナリー発電機では、タービンを回す役目を果たす媒体は、蒸発と液化を繰り返しながら循環する。

 沸点がかなり低い媒体を蒸発させればよいので、水蒸気を得ることなど期待できないような、低温の温水も発電に利用できる。また、工場の廃熱なども利用できる。

 変わったところでは、「温泉発電」に利用する例がある。源泉から出てきたままの温泉が人間にとって熱過ぎるようなときは、人間にとって快適な温度まで下げなければならない。しかし、ただ冷ましているだけでは熱エネルギーの無駄遣いだ。そこで、源泉から出てきた温泉を利用してバイナリー発電機で発電するという例がある。

 バイナリー発電は、発電の過程でCO2やSOx(硫黄酸化物)のような地球環境に悪影響を与えるガスをほとんど発生させない。温泉などの熱を利用して発電すれば、再生可能エネルギーの活用になる。熱源に地熱やバイオマスを利用すれば、固定価格買取制度の対象にもなる。太陽光や風力のように発電量は気候次第ということもなく、長期間安定して発電を続けられる。温泉地が多い日本では、これから出番が多くなりそうな発電方式だ。

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