小水力発電と太陽光で、農村が「スマートビレッジ」に変わる日本列島エネルギー改造計画(9)栃木

海に面していない栃木県は山と川が多く、イチゴの「とちおとめ」に代表されるように農業が盛んだ。農業用水路が整備されていて、水路を使った小水力発電は全国でも先進的である。さらに太陽光発電も取り入れて、農村を「スマートビレッジ」に変革するプロジェクトが始まっている。

» 2012年10月30日 09時00分 公開
[石田雅也,スマートジャパン]

 栃木県の取り組みでは何と言っても小水力発電が目を引く。発電量は全国で12番目の規模だが(図1)、小さな水路を使った発電方法の実用化では最も進んでいる。有名な導入事例が県北部の那須塩原市にある「百村第一発電所」だ。

図1 栃木県の再生可能エネルギー供給量(2010年3月時点)。出典:千葉大学倉阪研究室と環境エネルギー政策研究所による「永続地帯2011年版報告書」

 この発電所は電気事業者のJ-POWERが中心になって8年前の2004年に設置したもので、水路に水車と発電機を取り付けて発電する「落差工(らくさこう)発電システム」(図2)の先駆けになった。最大の特徴は落差がわずか2メートルの水力を使って30kWも発電できる点にある。

 水力による発電量は、水の流量と落差に比例する。2メートル程度の落差でも流量が多ければ発電量も大きくなる。百村第一発電所の水路は最大で毎秒2.4立方メートルの農業用水が流れており、この自然エネルギーが常に電力に変換されるわけである。

 それでいて既存の水路に機器を取り付けるだけで済むため、工期が短く、運用の手間もかからない。実際には発電所という言葉とは程遠い小さな設備だ(図3)。農村に設置する発電設備としては手軽で適している。

図2 小規模な水路を活用する「落差工発電」。出典:農林水産省関東農政局
図3 百村第一発電所。出典:農林水産省関東農政局

 こうした用水路を使った小水力発電を中心に、再生可能エネルギーで農村を「スマートビレッジ」に変えるプロジェクトが2010年から始まった。「とちぎ中山間地域スマートビレッジ特区」と呼ばれるもので、農林水産省など4つの省庁が支援して、山間にある農村を活性化する狙いだ。

 国から特区の指定を受けると、小水力発電や太陽光発電の設備を導入する際の規制が通常の場合よりも緩和される。県内には耕作を放棄してしまった土地も多くあり、設置条件が緩和されることによって太陽光発電システムを導入しやすくなる。発電した電力は農作物の栽培に利用するほか、固定価格買取制度によって農家の新たな収入源としても期待できるようになった。

 栃木県は温暖化対策として2020年までにCO2排出量を1990年比で25%削減する目標を掲げており、そのためには再生可能エネルギーの増加が不可欠である。ただし現状の見通しでは目標の達成は難しい状況にあるため、今後の開発余地が最も大きい太陽光発電の普及にも力を入れていく(図4)。

 2020年には太陽光発電を2009年時点の15倍に増やして、小水力発電を大きく上回る規模に拡大させる方針だ。先行する小水力発電に加えて太陽光発電やバイオマスの導入規模が肩を並べた時に、栃木のスマートビレッジ構想は大きく進展する。

図4 再生可能エネルギーの導入量の見通しと目標(単位:GJ/年)。出典:栃木県環境森林部

2014年版(9)栃木:「大きなダムから小さな川まで、水力発電の適地は逃さない」

2013年版(9)栃木:「日本の真ん中で急増するメガソーラー、木質から汚泥までバイオマスも多彩」

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