連載
» 2012年11月22日 09時00分 UPDATE

節電しながら快適かつ創造力を発揮できる照明環境(2):人間の光に対する感じ方も利用して、明るく見せる

前回は節電だけを狙ってタスク&アンビエント照明を取り入れている例が多いが、うまく計画すれば節電だけでなく、人間が快適に過ごせる空間作りにも役立つことを解説した。今回はタスク&アンビエント照明の手法で照明器具の配置を設計する際に、絶対に意識しなければならないポイントを挙げ、解説していく。

[八木佳子/イトーキ,スマートジャパン]

連載第1回:節電に成功しても、不快と感じる照明環境は失敗作

 まずは前回少し説明した「輝度」について、もう少し深く考えてみたい。照度はある面が受ける光の量、輝度はある面が発する光の量であること、そして面が光を発するのは、照明からの光を反射しているからだということは前回説明した。しかし、ある面の輝度を決めるのは光の量だけではない。

照明の光だけでは輝度は決まらない

 人間が室内を見ると、壁や天井が視界の中で大きな面積を占める。もちろん壁や天井自体が光を発することはない。壁や天井が明るく見えるとすれば、照明器具からの光を反射して光を放っているということだ(天井全体に照明器具を敷き詰めた「光天井」いう例外はあるが)。

 壁や天井は白いものばかりではない、さまざまな色があり、素材もいろいろある。照明器具からの光を反射するにしても、色や素材によって跳ね返ってくる光の強さも変わる。例えば同じ素材でも、色が異なる2種類の壁があると想像してほしい、一方の壁の色が白っぽい色で、もう一方は黒に近い色だとしたら、どちらの壁の方が強く光を反射するだろうか。

 もちろん答えは白っぽい壁だ。黒に近い色の壁と比べて、白っぽい壁は光をよく反射する(図1)。つまり「光の反射率が高い」のだ。この反射率によって、面の輝度が大きく変わる。ただ単純に「白い壁の方が明るく見える」と言ってしまうと、ごく当たり前のように聞こえるが、「輝度」について考えるときは、その言葉の意味をよく考える必要がある。

ITOKI_Lighting_2_1.jpg 図1 壁などの面に同じ量の光が当たると、面の色や素材によって跳ね返ってくる光の強さが変わる。出典:イトーキ

 輝度を決める要素はほかにもある。輝度は「ある面が発し、測定点に届く光の量」だ。当然、眼に届く光の量は、その面を見る位置によって変わる。面がかなり強く光を放っていても、遠い位置から見てしまうとその面が明るいとは感じにくい。

 最近は働く人同士のコミュニケーションを円滑にすることを狙って、オフィスにほとんど仕切りを設けず、全体を大きな一部屋として使う例が増えている。机上パネルなどの仕切りもなく、天井もスケルトン仕上げといったオフィスでは、照明で照らそうにも、照らすべき面が近くにないということも起こりうる。このようなオフィスでは室内にある垂直面までの距離が遠くなる分、人の目に入る光の量が少なくなり、部屋全体があまり明るく見えないことがある。

照明と内装は一体で計画すべき

 前回、薄暗く感じないさせないようにタスク&アンビエント照明を利用する方法を簡単に説明した。「照度と輝度の分布に注意して、輝度が足りない部分があれば、壁面や天井に光が当たるよう照明器具を追加する」という方法だ。

 輝度を決める要素が光の量だけではないと分かると、照明器具を追加するほかにも方法があると気付く。光を反射する天井や壁の、色や素材を変えるという方法だ。とはいえ、完成している部屋の天井を張り替えたり、塗り替えたりすることはコスト面から見ると現実的ではない。

 照明の配置などを設計し直すくらいの改修であれば、ブラインドやパーティションの色を変えるくらいが現実的だろう。ただし、長い目で見ると灯具で照らし続けるほうが得か、壁や天井の色などを大きく改修するほうが良いのかということは、一度は検討した方がよい。灯具で照らし続ければ、当然電力を消費し続ける。壁や天井の色を工夫することで同等の効果を得られるとすれば、果たしてどちらが良いだろうか。

 このように照明の効果と内装の色や材質には密接な関係がある。本来は、オフィスを計画する段階から照明も内装も一体で計画すべきなのだ。オフィスを設計するときに、最も重点を置くポイントが「節電」や「明るく感じること」ということは少ない。予算であることもあるだろうし、そこで働く人の移動しやすさということもあるだろう。オフィス設計時に、照明を効果的に利用することを狙って天井や壁に反射率の高い白い材料を採用するわけにはいかないこともあるだろう。

 照明と内装を一体で設計すれば、そのオフィスの目的を十分達成しながら、照明器具による消費電力を下げ、なおかつ働く人にとって快適な空間を作ることができる。いろいろな内装材を使いながら、灯具も工夫する、内装や家具の色で補う、多少暗く見える場所を明るく見せるようにパーティションを配置するなど、いろいろな方法の中からその場に最も合う方法を選べる。

人間の光に対する「感じ方」も意識する

 ある面の輝度はその面に当たる光の量、面が光を反射する割合、測定する位置が関係するということを説明してきた。人間に「明るい」「暗い」と感じさせる要素としてはほかに、人間の光に対する「感じ方」も挙げられる。

 トンネルから出たときに、まぶしくて少しの間周囲が真っ白にしか見えないということを経験したことがある人は多いと思う。反対に、よく晴れた日に屋外から急に薄暗い部屋に入ると、何も見えないと感じた人も多いだろう。しかし、どちらの場合も人間の眼が慣れてくると周囲が見えるようになってくる。

 このように明るさが極端に異なる環境に目が慣れることを「順応」と呼ぶ。明るい環境にいた人が暗い環境に順応するのが「暗順応」、反対が「明順応」だ。人間に「明るい」と感じさせる環境を作るには、この順応という現象も頭に入れておかなければならない。 例えば、視界の中に一部でも明るい面(直射日光の当たる机など)があると、眼は明るい光に順応する。その結果、ほかの部分は余計に暗く見える。反対に空間全体をそれほど明るくしなくても、目がその環境に順応していれば、細かいところまでよく見えるのだ。 さらにもう1つ、「対比」という現象もある。錯視の例としてよく登場するものだが、同じ色でもその周囲にある色が変わると、違う色に見える。図2はグレーの正方形を黒と白で囲んだ模様を並べたものだ。どちらのグレーも同じ色だ。しかし、2つあるグレーの正方形を同時に見ると、右側の方が黒っぽく見えると思う。人間は、ものの色や形の輪郭を際立たせて認識しやすくするという能力を持っている。この能力のために、白で囲んだグレーがより黒っぽく、はっきりと見えるのだ。

ITOKI_Lighting_2_2.jpg 図2 同じグレーの正方形でも、周囲の色によって見え方が変わる。出典:イトーキ

 人間が空間の明るさをどのように感じているのかを知るには、照度や輝度を単純に測るだけでは不十分だということが分かるだろう。順応や対比といった人間の光に対する感じ方も忘れてはならないのだ。

複雑な設計を手助けしてくれるソフト

 順応や対比といった人間の特性を考慮しつつ、照明と内装を一緒に設計する。いかにも難しく大変そうだ。「これでは、いくら節電のためといっても、やっぱりタスク&アンビエント照明は難しいな」と思う方もいるだろう。

 しかし、世の中には便利なものがある。ビジュアルテクノロジー研究所という企業が販売している「REALAPS」というコンピュータ・ソフトウェアだ。建築物をデザインする段階から、室内が人間の眼から見てどのように見えるのかということを計算し、結果を示してくれるソフトウェアだ。

 内装を決め、照明の数と配置も設定した「設計モデル」を用意すると、任意の位置から見たときに、室内の各部分がどのくらい明るく見えるかということを、画像や数値(「非常に明るい」から「非常に暗い」までの明るさの尺度を示す値:NB値)で確認できる。

 このソフトウェアが登場するまで、照明器具の配置と反射する面の設計は、豊富な経験が必要な仕事だった。経験がない設計者は、トライ&エラー(つまりやってみてダメなら変える)を何度も繰り返さなければならなかった。

 RELAPSEを利用すれば、人間から見て明るいか暗いかということを高い精度で予測してくれるので、照明と内装の設計を、早い段階で固めることができ、結果として完成度の高いものができる。

ITOKI_Lighting_2_3.jpg 図3 REALAPSによるシミュレーションの例。左から、3Dモデル、明るさの見え方をシミュレーションした画像、明るさ尺度値の分布。出典:イトーキ

節電の方法をもう一度考えてみる

 輝度を決める要素、人間の光に対する感じ方を紹介したところで、再びタスク&アンビエント照明を利用して節電する方法を考えてみよう。タスク&アンビエントという照明が節電に効果を発揮する理由としては、2つ挙げられる。1つ目は前回も説明したことだが、必要なところに必要十分な明るさを確保し、過剰に明るい部分を排除できるという理由。もう1つ、天井照明を主に使う一般的な照明と異なり、照らす対象の近くに灯具を配置できるという理由も挙げられる。

 光は電磁波であり、距離の2乗に反比例するように弱くなる。同じ性能の灯具で照らしても、遠くから照らしたときと近くから照らしたときでは、面の明るさは変わる。遠くから照らすと、面は暗くなってしまう(図4)。

ITOKI_Lighting_2_4.jpg 図4 同じ光源でも照らす対象から遠くなると届く光の量は少なくなる。出典:イトーキ

 ここで見方を変えよう。光の強さが距離の2乗に反比例するように弱くなるということは、それほど明るくない灯具でも、照らす面の近くに置けば十分明るく照らせるのだ(図5)。机を明るくしたいなら机の近くに設置したタスクライトで、壁ならウォールウォッシャー(壁面全体を照らす照明器具)で照らす。単純だが無駄のない合理的な方法だ。

ITOKI_Lighting_2_5.jpg 図5 近くに置けば小さな光源でも明るく照らせる。出典:イトーキ

 さらに、少し大掛かりになるが、自動調光を使えば外光も利用しながら、常に室内を必要十分な明るさに保つことができる。外光を利用できるときは照明器具を利用しない、あるいは暗くしておくことで消費電力を節約し、夕方から夜間の外光を利用できないときは照明器具を積極的に利用するという使い方だ。

 ただし、外光を利用するときは注意しなければならない点が1つある。先に説明したように視界の中の一部が極端に明るくなると、人間の眼が明るい面に順応してしまう。窓から入る外光は、適切にコントロールして取り入れることが重要だ。

 さらに晴れの日と雨の日では外光の明るさは大きく変わる。この影響を考慮して、窓に近い席では、外光が十分明るいときに照明で補う光の量を減らし、外が暗いときは明るく照らすようにすると、照明器具が昼間から無駄に明るく光っているという状態を防ぐことができる。

 以上、2回にわたってタスク&アンビエント照明について、その仕組みや効果についてご紹介した。次回は話題を変えて、仕事の種類に合わせて光の色を変える試みについてご紹介したい。

連載第3回:照明の「色」と「強さ」を使い分けると仕事がはかどる?

連載第4回:照明環境を使い分けて仕事の能率を上げる

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著者プロフィール

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八木 佳子(やぎ よしこ)

イトーキ ソリューシリョン開発統括部 Ecoソリューション企画推進部 Ud&Eco研究開発室 室長。認定人間工学専門家。人と人を取り巻く環境に関する調査研究と、研究に基づくソリューション開発に取り組んでいる。


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