火力発電のコストは下げられる、石炭で高効率な設備が商用運転へ電力供給サービス

原子力よりもコストが高いとされている火力発電だが、新しい技術でコストの低下とCO2排出量の低減を図る取り組みが着実に進んでいる。燃料費が圧倒的に安い石炭を使った高効率な発電設備が福島県内で実証を完了して、2013年4月から商用運転を開始することが決まった。

» 2012年12月06日 15時15分 公開
[石田雅也,スマートジャパン]

 福島県いわき市で2007年から実証実験が続けられていた「IGCC(石炭ガス化複合発電)」の実用化にメドがつき、発電能力25万kWの設備が2013年4月から商用運転に移行する(図1)。火力発電事業を運営する卸供給事業者の「常磐共同火力」が実証設備を受け継いで商用化することになった。

図1 IGCC(石炭ガス化複合発電)の実証設備。出典:クリーンコールパワー研究所

 IGCCは価格が安い石炭を使って高効率な発電を可能にする方式で、火力発電のコストを大幅に引き下げることができるため注目を集めている。東京電力によれば、火力発電で1kWhの電力を作るのに必要な燃料費は石油が最も高くて15.95円で、次にガスが10.67円、そして石炭は4.39円である。

 現在の火力発電で最も多く使われているガスと比べて石炭のコストは4割程度で済む。このところ電力会社が火力発電による燃料費の増加を理由に電気料金を値上げする動きが相次いでいるが、コストが安く済む石炭による火力発電を増やせば、燃料費の問題は解消できる。

コンバインドサイクル発電で効率向上

 これまで石炭を使った火力発電には大きな問題点があった。ガスや石油と比べて発電効率が低く、CO2の排出量が多いために、環境に対する悪影響が指摘されてきた。この問題を解決する新しい発電方式がIGCCである。

 IGCC(Integrated coal Gasification Combined Cycle)は2つの技術を組み合わせて発電効率を向上させる。石炭を「ガス化」してから発電する技術に加えて、火力発電の最新技術である「コンバインドサイクル発電」を併用する。

図2 石炭を使った火力発電の効率向上。出典:クリーンコールパワー研究所

 従来の石炭による火力発電では、ボイラーで石炭を燃焼して蒸気を発生させて、発電用の蒸気タービンを回していた。この方法では熱エネルギーを電気エネルギーに変換する効率は40%以下にとどまる。

 IGCCでは最初に石炭をガス化して、まずガスを燃焼した熱でガスタービンを回して発電する。さらに燃焼した後の高温の排熱で蒸気を発生させて2回目の発電を可能にする。この2段階の発電方式は、天然ガスを使った最新の火力発電設備でも使われているコンバインドサイクルと呼ばれるもので、発電効率を大幅に向上させることができる有望な技術だ。

 コンバインドサイクル発電はガスタービン内の温度が高いほど発電効率も高くなる特性がある。現在のIGCCの実証設備はガスタービンの温度を1200度で運転させて、発電効率を42.9%まで改善した。さらに商用運転の段階では1400〜1500度に高める予定で、発電効率は48〜50%まで向上する見込みだ(図2)。

古い火力発電設備をIGCCで刷新へ

 いわき市のIGCCは国の補助金を受けたプロジェクトで、9つの電力会社とJ-POWERの共同出資による「クリーンコールパワー研究所」が約5年間にわたって長期耐久運転試験などを続けてきた。IGCCの実証設備は東京電力と東北電力が設立した常磐共同火力の勿来発電所(図3)の敷地内に建設されており、2013年4月からの商用運転は常磐共同火力が実施する。

図3 勿来(なこそ)発電所。出典:常磐共同火力

 勿来発電所では石炭を主体に4基の火力発電設備が運転中で、合計162万5000kWの発電能力がある。このうち2基は運転開始から40年以上が経過している。火力発電設備の耐用年数は通常40年程度とされていることから、今後はIGCCによる新しい発電設備へ順次移行していくことが予想される。

 全国の電力会社は石炭のほかに石油を燃料に使った古い火力発電設備を数多く稼働させている。こうした発電設備を高効率なIGCCへ転換させれば、燃料費を大幅に削減することができ、同時にCO2排出量を抑制することもできる。原子力発電に頼らずに安定した電力を低コストで供給する体制を構築することは決して不可能ではない。

*この記事の電子ブックレットをダウンロードへ

テーマ別記事一覧

 電力供給サービス 


Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.