電気料金の値上げを後押し、火力発電による原価増を想定した法改正法制度・規制

9月に東京電力が電気料金を値上げしたばかりだが、今後さらに値上げを実施しやすくなる法改正が施行された。火力や原子力の比率が変動した場合に短期間で電気料金を改定できるようにするもので、原子力発電所の停止に伴う火力発電の増加を理由に値上げが可能になる。

» 2012年11月20日 13時00分 公開
[石田雅也,スマートジャパン]

 経済産業省が11月16日付で、電気事業法で定める料金算定規則などを改正する省令を施行した。この規則は電力会社が電気料金を改定するルールやプロセスを規定したもので、従来は電力会社があらゆる原価を積み上げたうえで電気料金の改定を申請し、経済産業大臣が認可する方法をとっていた。

 しかし今回の省令により、電力会社は原価のうち燃料費の変動だけを理由に電気料金の改定を申請できるようになる。従来と比べて値上げが認可されるまでの期間が短縮され、電力会社が値上げを実施しやすくなることは確実である。

原子力発電所の再稼働を前提にした原価

 東京電力が9月に電気料金を改定した際には、燃料費以外の人件費などに対して原価削減の圧力が強く、認可までに長い時間を要したうえ、値上げ幅も縮小された。新たな省令の施行によって、電気料金を再び値上げする可能性が大きくなった。

 というのも、東京電力は2012年〜2014年の原価を2008年と比較して値上げの根拠にしている(図1)。火力発電の増加によって燃料費が年間に4753億円も増える想定だが、人件費の削減などによって原価全体の増加は2609億円に抑えられた。もし燃料費だけで値上げ幅が決まっていたら、電気料金はもっと高くなっていたことになる。

図1 東京電力が2012年9月からの値上げの際に算定した原価。出典:東京電力

 ここで問題になるのは、東京電力が算出した2012年〜2014年の燃料費が原子力発電所の再稼働を前提にしている点だ。現時点で原子力発電所の稼働はゼロだが、3年間では7%の電力を原子力で供給することを想定している(図2)。このまま原子力発電所が稼働せずに火力発電で補い続けると、当初の想定よりも燃料費が増加する。

図2 東京電力が想定する電力の構成比率。出典:東京電力

 東京電力が算出した燃料費の単価は、火力が11.13円に対して原子力は1.66円と約7倍の開きがある(図3)。原子力による電力をすべて火力で代替した場合、年間の燃料費は2263億円も増える計算になる。今回の省令によって、こうした燃料費の増加額だけを根拠に電気料金の改定を申請できるようになるわけで、そうすると再び10%近い値上げが可能になってしまう。

図3 東京電力が想定する燃料費・購入電力料。出典:東京電力

 今のところ東京電力が原子力発電所を再稼働できる見通しは立っておらず、一方で火力発電による燃料費の増加が影響して多額の赤字を計上している。このため2013年度にも燃料費の増加を理由にして再度値上げに踏み切る可能性が大きくなったと考えられる。

他の電力会社は次回の料金改定後に適用

 改正した省令が適用されるのは、電力会社が料金改定の認可を受けた後に限られている。東京電力以外の電力会社が新たに値上げを実施する場合には、従来通り燃料費以外を含む原価全体をもとに申請する必要がある。その場合でも燃料費の算定には原子力を加えることが予想される。

 例えば関西電力のケースを考えると、次回の値上げの申請時には、原子力発電所の稼働を前提にして燃料費を算定することはほぼ間違いない。その試算のまま認可されると、その後に原子力発電所が縮小あるいは全面停止になった場合に、東京電力と同様に燃料費の増加を理由に再度の値上げが可能になるわけだ。

 認可のプロセスにおいては、従来通り公聴会などを実施するものの、燃料費だけを根拠にした議論になるとすれば、修正の余地は小さいと見るべきだろう。

 利用者は電気料金が毎年のように値上げされる事態を覚悟しておく必要がある。節電による電力使用量の削減や自家発電設備の増強で対抗するしかない。それでも結果として電力会社への依存度が下がり、長期的には電力コストの低減につながるはずである。

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