東京電力は2012年末に発表した通り、合計で出力260万kWの電力を供給する業者を決定する入札を実施する。入札条件には上限価格が定めてあり、その価格は9.53円。この条件で利益を出すには石炭火力しかないという声が多い。
この入札は火力発電の発電コストを押し下げるために、2012年9月に経済産業省が定めた指針に従って開催するものだ。その指針では、電力会社が火力発電設備を新たに確保するときは自前で建設せずに、入札を実施して安い価格で電力を調達することを原則としている。
東京電力は「総合特別事業計画」で2019年度〜2021年度に火力発電能力を合計で260万kW引き上げることを定めている(図1)。今回の入札の対象はこの260万kWだ。自前で発電設備を建設せずに、他の事業者から電力を購入することで発電所の建造コストなどの設備投資負担を最小限に抑える狙いだ。
入札の条件は、1日中一定のペースで供給を続けるベース型電源であり、年間利用率が70〜80%、1kWh当たりの上限金額は9.53円となっている。供給期間は原則15年間だが、入札時に10年間〜30年間の範囲で選択できる。
供給開始時期は2019年6月〜2021年6月の間。東京電力は、落札者が提示した条件にもよるが、必ずしも2019年6月に電力供給を始める必要はないとしている。
当初、東京電力は260万kWを3分割して別々に入札を実施して電力を調達する予定だったが、発電施設の開発期間を考慮し、可能な限り多くの事業者に入札に参加してもらうために260万kWを一括で調達することにした。
日本の各電力会社が火力発電の燃料費がかさんで経営難に陥っていることを考えると、火力発電による電源の調達コストを押し下げることは必要だろう。しかし、今回募集する電力がベース電力であり、高い稼働率を求めていること、何より上限価格が9.53円というところが入札希望者を悩ませることになるだろう。
上限価格を考えると、燃料は事実上石炭のほかに選択肢はない。石炭火力は今回の入札の条件にあるように70%〜80%という高い設備利用率で運転することが発電コストの面から見て合理的という特長もある。ベース電源として使いたいという東京電力の要望にもかなっている。
しかし、火力発電の各方式の中でも石炭火力はCO2、SOx(硫黄酸化物)、NOx(窒素酸化物)といった、環境に悪影響を与えるガスをかなり発生させる。今回の入札について石原伸晃環境相は記者会見で、CO2排出量の新しい目標値を決めることを難しくさせるものだと難色を示している。
ただし、石炭火力発電の技術はどんどん進歩している。その一例が「石炭ガス化複合発電(IGCC:Integrated coal Gasification Combined Cycle)」だ。石炭からガスを抽出してそのガスでタービンを回し、タービンからの高温の排気で水蒸気を作ってタービンを回すという方式だ。
ガスと水蒸気の2つの力でタービンを回すので、発電効率が高くなる(少ない燃料で大きな電力を作れる)。さらに、既存の石炭火力発電設備に比べるとCO2などの環境に悪影響を与えるガスの排出量を抑えられるという特長もある。日本では福島県いわき市で2007年からIGCCの実証実験が続いていた。2012年末に実用化のめどが立ち、2013年から出力25万kWでが稼働を始めることになった(図2)。
最新技術を投入すれば建設費は上がり、あまり安い入札価格を提示できなくなる可能性もある。しかし、環境保護と電力確保を両立するには、入札者は最新技術を惜しむことなく投入し、東京電力はコスト圧縮だけでなく環境保護も考えて落札者を決めるべきだろう。今回の入札は東京電力にとっても、入札に参加しようと考える業者にとっても悩ましいものになりそうだ。
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