ミカンやタオルからバイオマスを、風力と太陽光も拡大中日本列島エネルギー改造計画(38)愛媛

四国の中で再生可能エネルギーの導入量が最も多いのは愛媛県である。中でもユニークなのはバイオマスの分野で、特産品のミカンやタオルから燃料・熱・電力を作り出す。長い海岸線を生かして風力や太陽光発電の取り組みも広がるなか、原子力発電の位置づけが微妙な状況だ。

» 2013年02月21日 09時00分 公開
[石田雅也,スマートジャパン]

 愛媛県の再生可能エネルギーの導入量を見ると、小水力発電からバイオマスの熱利用までバランスよく普及していることがわかる(図1)。瀬戸内海に面して長い海岸線が広がり、南側には四国山地がそびえる。県内の地域によって気候に差があり、それぞれの特性に合わせて再生可能エネルギーを活用する。

図1 愛媛県の再生可能エネルギー供給量(2010年3月時点)。出典:千葉大学倉阪研究室と環境エネルギー政策研究所による「永続地帯2011年版報告書」

 まず注目すべきはバイオマスである。愛媛県はミカンの生産量が和歌山県に次いで全国第2位で、あの有名な「ポンジュース」が県の中部にある工場で作られている。この工場で2010年から、ミカンを搾った後の残留成分を使ってバイオ燃料を製造する実証プラントが稼働した(図2)。

 ジュースの残留成分から脱汁液を取り出すと、1日あたり100立方メートルの容量になる。これを発酵させて蒸留することで、5キロリットルにのぼる大量のエタノールを製造することができる。このバイオ燃料は工場のボイラーや自動車・農業用機械などで使われている。リサイクルによるCO2排出量の削減効果は1日あたりで6.4トンと大きい。

図2 ミカン搾汁の残留成分を活用したバイオエタノール製造プラント(えひめ飲料の松山工場)。出典:資源エネルギー庁

 このほかにも生産量が日本一の「今治タオル」で知られる綿繊維を使って、同じようにバイオエネルギーを製造する設備がある。リサイクル技術を専門にする日本環境設計が今治市の工場で取り組んでいるもので、タオルなどの生産工程で排出される繊維のクズからバイオ燃料を作り出す(図3)。繊維を活用したバイオマスの先進的な事例である。

図3 綿繊維からバイオエネルギー(熱・電力)を再生するプロセス。出典:日本環境設計

 一方、海沿いでは風力発電が拡大している。特に風力発電所が集中しているのは、県の最西端から九州に向かって細長く伸びる佐田岬半島だ。この半島だけで6つの大規模な風力発電所が稼働している。6か所の発電能力を合計すると68MW(メガワット)になり、島根県にある日本最大の「新出雲ウインドファーム」(78MW)に匹敵する規模になる。

 同じ半島の中に、四国電力の「伊方発電所」もある。四国で唯一の原子力発電所で、最も新しい3号機は1994年に運転を開始した。すぐ近くには6つの風力発電所のひとつである「伊方ウィンドファーム」が稼働中だ(図4)。

 地元の伊方町は「風車のまち」を大々的にアピールする一方、今のところ原子力発電に関しては情報発信を控えている。風力も原子力も電源であることに変わりはないが、特性があまりにも違う。地元では将来に向けて風力と原子力が並存する状態を望んでいるのだろう。

図4 伊方ウィンドファーム(左)と伊方発電所(右)。出典:エコ・パワー、四国電力

 風力に比べると太陽光発電の導入量はまだ少ないが、実は愛媛県内では日本で初めてのメガソーラーが1981年に稼働している。当時の通商産業省が推進した「サンシャイン計画」の中で、2万7000枚の太陽光パネルを使って1MWの発電を実現した「西条太陽光試験発電所」である。

 隣の香川県で同時期に進められた太陽熱による発電は実用化に至らなかったが、西条市の太陽光発電システムは11年間にわたって稼働した。その後は四国電力の「松山太陽光発電所」に引き継がれて、当時の太陽光パネルの約3割が現在も使われている(図5)。

 バイオマスが盛んな今治市や風力発電所が集まる佐田岬半島を含めて、今後は各地域で太陽光発電を拡大していく計画が進んでいく。

図5 西条太陽光試験発電所(左、当時)と松山太陽光発電所(右)。出典:西条市産業経済部、四国電力

2014年版(38)愛媛:「リアス式の海岸に風力発電、50基を超える風車で自然と共生」

2013年版(38)愛媛:「みかんのバイオマスに続け、南予の風力と東予の太陽光」

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