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» 2013年03月04日 13時00分 UPDATE

エネルギー管理:省エネ設備の導入で不動産価値を高める

エネルギーの効率的な利用の必要性が叫ばれているにもかかわらず、BEMSの導入は思うように進んでいない。「環境不動産(グリーンビルディング)」として不動産価値へ転嫁でき、デマンドレスポンスの制度普及によって新たな収入源をもたらすような変革が必要だ。

[シュナイダーエレクトリック/指原洋一,スマートジャパン]

 現在日本のエネルギー政策は転換期を迎えていると言われている。2011年3月11日に発生した東日本大震災による原子力発電の停止、さらには原料値上げによる発電コストの上昇、再生可能エネルギー買取制度による一般需要家へのコスト負担など、前政権が進めてきた政策は現政権になってさらに注意深くかつ大胆に展開されていくものと思われる。

 これまで我々はエネルギー(電力)をいつでも必要な時に必要なだけ得られるものと考えていた。しかし、現在のように原子力発電による電力の安定供給が不確実になり、かつ電気料金の値上げが多くの地域で表明される状況においては、企業や個人の意識改革が必要である。

 一方、核家族化による世帯数の増加、社会のIT化、スマート家電の普及など、さらに電力需要が増える傾向にある。この傾向は日本のみならず世界の潮流であり、2050年までに世界のエネルギー使用量は2倍になると言われている。逆にCO2排出量は2分の1に削減する必要がある。この「エネルギージレンマ」をいかに効率よく、生活・経済活動に無理なく解決するかが喫緊の課題となっている。

政府のエネルギー・環境戦略

 このような現状を前に、日本政府もさまざまなエネルギー戦略、補助金制度、現行基準制度の強化などの対策を講じている。国家戦略室が提案した「当面のエネルギー需給安定策」によると、基本的な対処方針 5原則 として以下の項目を挙げている。

(1)原子力発電所の停止が広範に生じた場合でもピーク時の電力不足とコスト上昇を最小化する。

(2)計画停電、電力使用制限、コストの安易な転嫁を極力回避する。

(3)政策支援や規制・制度改革で持続的かつ合理的な国民行動を全面的に支援し、エネルギー構造改革を先行的に実施する。ピークカットとコストカットが持続的に進む経済や社会の仕組みを早急に築く。

(4)経済活性化策としてエネルギー需給安定策を位置づける。

(5)国民参加の対策とするため、3年間の工程を提示する。

 具体的な数値目標としては「グリーン政策大綱」の中で、2030年までに1100億kWh以上の電力削減、および3000億kWh以上の再生可能エネルギーの開発が示されており、待ったなしの状況である。このような方向性が示される状況にあって、民生業務部門(商業ビル)では建物のエネルギー消費量が1990年以降の20年間で1.39倍となっており、有効に削減できる手段が見出せていない。

 こうした状況を打破すべく、現在3省庁(国土交通省、経済産業省、環境省)が協働して進めている政策が「住宅・建築物の省エネ基準適合義務化」である。住宅などすべての建築物を新築する際に、省エネルギーの基準を満たすよう義務付ける方針を決めたものだ。

 現在示されているロードマップによると、床面積2000平方メートル以上の建物で2015年度ごろから、300平方メートル以上2000平方メートル未満の場合は2017年度ごろから義務化する方針になっている。

省エネルギー推進のための喫緊の課題

 建物における省エネルギー対策は今後の我が国におけるエネルギー政策の重要な要因である。そのためにBEMS(ビル向けエネルギー管理システム)の補助金制度などが創設され、エネルギーの見える化や建物設備の運営・管理を最適化するための施策が講じられている。

 ところが、現状のBEMSの補助金申請件数を見ても明らかなように、遅々として改善が進んでいないのが実態である。その原因のひとつとして、市場における情報の欠如によるステークホルダー間(ビルオーナー、投資家・デベロッパー、ビルユーザー=テナントなど)の消極的な行動心理が影響していると思われる。

 ビルオーナーやデベロッパーはエネルギー効率の良いシステムを導入したいが、テナントの誘致やエネルギー費の削減による初期投資回収に自信が持てていない。一方のテナントはシステムの導入によって賃料・共益費の値上げが要求されることを嫌う。さらには省エネ対策を取り入れる設計者やゼネコンは、最新のビルエネルギーの提案に対応できるだけの十分な予算を得られない。

 つまり、国や地方自治体からの補助金を受けることができても、根本的にエネルギー効率の向上がランニングコストの削減のみで検討される現状では、投資に踏み切るのは困難である。

 そこで今後のエネルギー行政において、長期的な視野に立って大きな付加価値をもたらすと期待される2つのトレンドがある。ひとつは「環境不動産(グリーンビルディング)」としてエネルギー効率の向上による不動産価値への転嫁、もうひとつはBEMSを備えたビルが「デマンドレスポンス」の制度普及によりエネルギー供給源となる可能性である。

環境不動産(グリーンビルディング)

 2010年3月に発行された「環境価値を重視した不動産市場形成のあり方について」(環境価値を重視した不動産市場のあり方研究会)では、次のように述べられている。

 「不動産分野として果たすべき役割の大きさに鑑みれば、環境面で持続可能な環境価値の高い不動産(環境不動産)のストックを形成していくことが極めて重要である。しかしながら、我が国の不動産投資市場の現状では、省エネなど持続可能性(サステナビリティ)の向上に資する環境性能の重要性は価値として認識・評価されているとはいえず、環境不動産が投資家等に認識・評価され持続的に投資が促進される状況に至っていないのが現状である」。

 これはエネルギーコストの削減効果のみで省エネルギーへの投資が考えられているからである。現在のところ、不動産投資において収益(家賃水準や入居率)に直接結びつくもの(メンテナンスなど)や、社会的に問題となったもの(汚染物質、耐震性など)は重視されているが、省エネルギー・省資源のようなサステナビリティの向上に重要な環境性能は重視されていない。

 そこで最近になって不動産業界や金融業界で提唱され始めたのが「環境不動産(グリーンビルディング)」である。この概念が市場に浸透して、BEMSを設置した建物の価値が売買時や賃貸時に評価され、投資家やテナントにとって物件を選択する際の重要な判断基準になった時に初めて、すべてのステークホルダーに対して投資のインセンティブが働く。

schneider1.jpg 図1 不動産市場の参加者と主な行動様式。出典:環境価値を重視した不動産市場のあり方研究会、不動産における「環境」の価値を考える研究会

 環境不動産を普及させるためのひとつの原動力として、2012年に「CASBEE不動産マーケット普及版」の認証制度が始まった。従来のCASBEE」(建築環境総合性能評価システム)が抱える課題をクリアし、広く不動産市場で活用されることを目的に開発された。評価項目は従来の20分類・約110項目から5分類・21項目に絞られて、評価や認証にスピーディーに対応でき、理解しやすいシステムになっている。

 すでに海外で普及している認証制度との整合性も考慮されており、特に米国LEEDや英国BREEAMなどとの読み替えが可能となっている。昨今再び活況を呈している外資系投資会社やテナントなどが日本の不動産市場へ投資を考える場合、LEEDやISO5001認証を要求することへの対応策とも考えられる。

schneider2.jpg 図2 SRI市場の国際比較(2007年平均の外国為替相場で円換算)。出典:環境価値を重視した不動産市場のあり方研究会、社会的責任投資フォーラム

 今後の我が国においては、環境などへの国民の関心がますます高まり、不動産市場に影響を与えることが想定される。それに伴って、建築・不動産業界は新しい不動産価値に対する国民のニーズに的確に対応し、質の高い不動産を形成していくことが求められる。今後は欧米同様、SRI(社会的責任投資)ファンドなどが注目されるようになると、さらに投資に弾みがつくことになると思われる。

デマンドレスポンス制度

 デマンドレスポンス(DR:Demand Response)とは、「卸市場価格の高騰時または系統信頼性の低下時において、電気料金価格の設定またはインセンティブの支払に応じて、需要家側が電力の使用を抑制するよう電力消費パターンを変化させること」を指す(Assessment of Demand Response & Advanced Metering、FERC(2011)による定義)。国内では全国4地域(横浜市、豊田市、けいはんな学研都市、北九州市)でDRに関する実証試験が進められている。

 デマンドレスポンスの手法としては、「電気料金ベース」と「インセンティブベース」がある。どちらかというと前者が「ムチ」として作用するのとは反対に、後者は「アメ」として、電力会社からの節電要請に応じて需要家が節電したら、何らかの形で報酬を受け取れるというものだ。

 環境不動産と同様に、デマンドレスポンス制度も建物の省エネルギー政策を進めるうえで強力な動機づけになる。BEMSを導入してデマンドコントロールや最適なエネルギー管理・制御などを事前に施している建物は、デマンドレスポンス適用時に新たな収入源になるからである。ランニングコストの削減という消極的な行動心理ではなく、積極的に価値・収入を生み出すビジネスツールとしてのBEMSの導入を意味することになる。

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著者プロフィール

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指原 洋一(さしはら よういち)

シュナイダーエレクトリック ビルディング事業部 バイスプレジデント。2012年4月より現職の任に就き、現在に至る。シュナイダーエレクトリックに入社する以前は、大手ゼネコンをはじめ、様々な業務領域において、一貫して建設市場のエンジニリングおよびマネジメント業務に従事。


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