巨大な干拓地で風力から太陽光まで、潜在するバイオマスと地熱も豊富エネルギー列島2013年版(5)秋田

秋田県は再生可能エネルギーの宝庫で、太陽光以外は全国でも有数の供給量を誇る。風力を中心に新しい発電所の建設計画が続々と始まっていて、特に活発な場所が八郎潟の干拓地だ。周辺地域では稲わらや秋田スギを活用したバイオマス、さらには地熱発電の可能性も広がっている。

» 2013年04月30日 09時00分 公開
[石田雅也スマートジャパン]

 かつて秋田県の日本海側に、日本で2番目に大きい湖の「八郎潟」があった。45年前に湖の大半を干拓地にして、農業が盛んな「大潟村」に生まれ変わった。そして2010年度から始めた8か年計画で新しい村づくりを進めているところだ。目標のひとつに自然エネルギーの供給基地を掲げている。

 計画中のプロジェクトで最も規模が大きいのは「大潟村風力発電所」である。広大な干拓地を縦断する形で40基の大型風車を建設して、日本で最大の100MW(メガワット)の風力発電所を建設する計画だ(図1)。5年後の2018年の運転開始を目指して、現在は環境影響評価の段階にある。

図1 「大潟村風力発電所(仮称)」の建設予定地。出典:サミットエナジー

 この地域一帯には日本海からの強い風が吹き、風力発電に適しているが、これまで大規模な風力発電所はなかった。大潟村の風力発電所を建設するのは住友商事グループのサミットエナジーで、大潟村から日本海側に突き出た男鹿半島でも29MWの風力発電所を建設中だ。2つのプロジェクトが実現すると、秋田県の風力発電の規模は一気に拡大する。

 同じ大潟村にはメガソーラーの建設候補地もある。村が所有している56万平方メートルの広大な空き地があり、秋田県がメガソーラーの用地として誘致を進めている(図2)。この空き地を全面的に利用できれば、50MWクラスの大規模なメガソーラーを建設することも可能になる。

図2 大潟村のメガソーラー建設候補地。出典:秋田県産業労働部

 ただし秋田県の日射量は全国で最も少なく、その分だけ発電量が少なめになることを想定しなくてはならない。秋田県の太陽光発電の導入量は47都道府県の中で最下位にある(図3)。そこで広い土地を効率的なメガソーラーに転用するための方策が必要になる。

図3 秋田県の再生可能エネルギー供給量。出典:千葉大学倉阪研究室、環境エネルギー政策研究所

 ひとつの解決策として注目したいのは市民の共同出資による草の根のプロジェクトだ。秋田市内にある農地で1.6MWのメガソーラーを建設する計画が進んでいる。地元の企業が中心になって市民からの出資を募る一方、メガソーラーの運営に欠かせない除草や除雪の作業を地元の農業法人に委託する。できるだけ多くの発電量を得られるように、地域全体で事業の推進体制を作る。

図4 市民参加型の風力発電所のひとつ「風こまち」。出典:市民風力発電

 同様の市民参加型の発電事業は、すでに風力では県内の3か所で始まっている(図4)。秋田市で2か所、大潟村の隣の潟上市で1か所、いずれも1.5MWの大型風車を使って電力を供給中だ。市民の出資をもとに風力発電事業を展開する「市民風力発電」という会社が建設から保守・運営までを請け負っている。現在までに北海道と東北を中心に12か所の風力発電所を稼働させた実績がある。

 今後も自治体や民間企業に依存しない市民参加型の発電プロジェクトは全国各地で着実に増えていくだろう。特に秋田の場合は条件が不利な太陽光発電には民間企業が投資しにくいことから、自治体や金融機関がサポートする形で市民の共同出資による発電プロジェクトを増やしていく必要がある。

 秋田県には潜在的な再生可能エネルギーが豊富に眠っている。バイオマスと地熱も未開拓の部分が多い。

 バイオマスに関しては2008年度からの5か年計画で、国や自治体が支援して2つの実証事業が行われた。1つは県内で大量に出る稲わらを再利用して、燃料になるバイオエタノールを製造するもの。もう1つは名産の秋田スギの間伐材や加工後の残材から、同様にバイオエタノールを製造する事業である(図5)。

図5 バイオエタノール製造実証プラント。稲わらを原料とする潟上市の設備(左)、秋田スギを原料とする北秋田市の設備(右)。出典:秋田県生活環境部

 製造したバイオエタノールは自動車を使って走行実験も実施した。実験場所は大潟村にある次世代自動車の専用道路「大潟村ソーラースポーツライン」である。実は冒頭に紹介した大潟村の風力発電所は、このソーラースポーツラインに沿って建設する計画になっている。

 バイオエタノールの実証事業は2012年度に終了して、今後の展開については明らかになっていない。県内に豊富にあるバイオマスを活用できる有効な方法のひとつであるだけに、実用化に向けた新たな取り組みの開始が待たれるところだ。

 地熱に関しても温泉で有名な湯沢市で2010年度に実証実験が行われている。地熱発電の可能性を調査するために井戸を掘削して、地下から蒸気と熱水を噴出させ、その量や温泉への影響などを調査した(図6)。分析の結果、地熱発電の対象として有望な場所であるとの評価を得ることができた。

図6 湯沢市の地熱噴出試験。出典:湯沢市総務企画部

 湯沢市には東北電力が運営する29MWの大規模な地熱発電所が稼働中で、潜在力は十分に証明されている。新たに地熱発電所を建設するプロジェクトの検討はいくつか進んでいるが、具体的な計画の発表はまだである。地熱は天候に左右されずに安定した発電量を得られるため、原子力に代わる電源として期待は大きい。

 さまざまな可能性を秘めた秋田県の再生可能エネルギーが北海道や青森と並んで全国のトップレベルになる時期は遠くないはずだ。

*電子ブックレット「エネルギー列島2013年版 −北海道・東北編−」をダウンロード

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