大規模量産に向く安価な太陽電池とは、ベルギーの研究機関が新材料で効率9.7%自然エネルギー

薄膜太陽電池は製造時のエネルギーが少ない上に、材料を少ししか使わないという特徴がある。現在はCIS(GIGS)太陽電池とCdTe太陽電池が薄膜太陽電池として優位にある。だが、長い目で見た場合CISには弱点があるというのがベルギーの研究機関の主張だ。

» 2013年07月08日 09時00分 公開
[畑陽一郎,スマートジャパン]

 太陽電池の開発目標は複数ある。2つ挙げるとすれば、高い変換効率と、低い製造コストだ。

 薄膜太陽電池は、材料をいったん「気化」してガラス板(基板)の表面に付けるという手法で製造する。材料を高温で溶かして再結晶化する工程が必要ないため、製造時に必要なエネルギー(電力)が少なくて済む。

 少ない材料で発電量を多くできることも特徴だ。現在、住宅の屋根置き用途などに多く用いられている単結晶Si(シリコン)太陽電池や多結晶Si太陽電池では、発電層の厚みを5分の1mm(200μ)以下にすることは難しい。なぜなら、Siの塊(バルク)を糸ノコで薄切りにすることで製造しているからだ。このとき材料の約半分が削りくずとして無駄になる。一方、薄膜太陽電池なら200分の1mm(5μm)程度で十分だ。削りくずも出ない。製造時の材料コストを抑えることができる。

CIGS太陽電池のライバル登場

 薄膜太陽電池の弱点は、長い間、変換効率にあった。常に、結晶Si太陽電池よりも低い値に留まっていたからだ。現在は違う。薄膜太陽電池の中で最も変換効率が高いCIGSとCdTeの2方式は、いずれも1cm角程度の小面積セルで約20%の変換効率を実現している。これは最も変換効率の高い多結晶Si太陽電池セルとほぼ同じ値だ。

 ベルギーの研究機関IMECの研究所IMOMEC(Institute for Materials Research in Microelectronics)は、薄膜太陽電池に焦点を当てている欧州の研究機関のコンソーシアムであるSollianceと共同で、内部の測定ながら、変換効率9.7%の新型太陽電池セルの試作に成功したと発表した(図1)。CZTSe太陽電池セルである。

 図1に示した太陽電池セルの発電層の厚みは1000分の1mm(1μm)。多結晶であり、1つの結晶の粒径は約1μm。表面の模様は集電用の電極だ。

図1 CZTSe太陽電池セルの拡大写真(1cm角)。出典:IMEC

なぜCISでは満足できないのか

 Sollianceなどが考える薄膜太陽電池開発の前提条件はこうだ。薄膜太陽電池の量産規模は現在、既に大きくなっており、将来必ず希少資源がネックになる。従って、希少資源を使わない薄膜太陽電池が必要だ。加えて変換効率はCIGSやCdTeと同程度か上回る必要がある。

 CIGSは、銅(Cu)とインジウム(In)、Ga(ガリウム)、Se(セレン)を使う。このうち、特にインジウムの存在量が少ない。銅やガリウムと比較すると1000分の1程度しか地殻に含まれていない。現時点では亜鉛鉱石や鉛鉱石に含まれているインジウムで十分まかなえているものの、太陽光発電の規模が今後も伸び続けていくことを考えると、なるべく存在量の大きな元素を使った方が有利になるという考え方だ。資源の限界量に近づくと材料コストも跳ね上がるだろう。

 そこで、CIGSではなく、CZTSを使う。CZTS太陽電池の材料は銅と亜鉛、スズ、硫黄である。インジウムとガリウムの代わりに存在量が大きい亜鉛(Zinc)とスズ(Tin)を使った形だ。CZTSの変換効率の最高記録は現在11.1%。このままCZTSの変換効率を伸ばしていくのはもちろんだ。だが、Sollianceなどの戦略にはさらに一工夫がある。

 その戦略とは、CZTSと今回開発したCZTSe(硫黄の代わりにセレンを使ったもの)を上下に重ねて変換効率を稼ぐというものだ。いわゆる薄膜多接合太陽電池である。CZTSとCZTSeはそれぞれ吸収する太陽光の波長が異なるため、より表面へ近い上部にCZTSeを、下部にCZTSを配置できれば、変換効率が高まる*1)

 今回Sollianceのグループが開発したのはCZTSと比較して開発が遅れていたCZTSe側だ。今後は、CZTSとCZTSeを積層し、より高い変換効率を得る研究開発へと進む予定だ。

*1) CZTSのバンドギャップは1.5〜1.6eV、CZTSeは0.9eVである。なお、Si薄膜太陽電池でも微結晶Si層との多接合を利用した製品がある。

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