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» 2013年07月31日 11時00分 UPDATE

自然エネルギー:「夢よ再び」薄膜シリコン太陽電池、3層構造採用で出力7%増 (1/2)

製造コストが圧倒的に低いことを武器に他の太陽電池技術を打ち負かすはずだった薄膜シリコン太陽電池。だが、変換効率が当初予測されていたペースでは向上していかなかった。カネカは発電層を従来の2層から新たに3層に増やす技術を開発、出力7%増を武器に、住宅用太陽電池モジュールを改善していく。

[畑陽一郎,スマートジャパン]

 単結晶シリコン太陽電池や多結晶シリコン太陽電池が市場をほぼ独占していた2002年当時、魅力的な太陽電池技術が登場した。薄膜シリコン太陽電池だ。研究室で試作した小セルでは変換効率がすぐに16%を超え、将来有望な技術が登場したという興奮があった。変換効率だけではない。最大の魅力は製造コストが圧倒的に安く付く見込みが立ったことだ。

 結晶シリコン太陽電池は現在でも、原料のシリコン(ケイ素)を加熱してまず液体にする。それを冷却して結晶化したのち、ワイヤーで薄くスライスしてウエハーを作る。製造時に投入するエネルギーが多く、工程がかさみ、原料のシリコンの約半分がワイヤーの削りくずとして無駄になる。全てがコストアップ要因だ。単結晶シリコン太陽電池の方が、投入するエネルギーが多く、工程が複雑であるため、より高価だ。

 薄膜シリコン太陽電池は違う。ガラス基板上に低圧下でモノシランガス(SiH4)を吹きつけながらプラズマ放電すればよい。モノシランガスは一般的な半導体の製造工程で多用される基本的な原料ガスだ。こうして厚さ1万分の3mm(300nm)程度のアモルファスシリコン薄膜からなる太陽電池ができる。投入エネルギーは少なく、工程が少なく、原料シリコンもごく少量だ。なお、アモルファスシリコンとは結晶化していないシリコンをいう。

 薄膜シリコン太陽電池は大面積化しても製造コストがそれほど上がらない。製造した薄膜のシリコンにレーザーで「切れ込み」を入れればいくらでも「太陽電池セル」に分割できる。10cm程度の小さな太陽電池セルを機械的に組み合わせて太陽電池モジュールに加工する結晶シリコン太陽電池よりも圧倒的に有利だ。このため、薄膜シリコン太陽電池の主な用途はメガソーラー用の太陽電池モジュールだと考えられてきた。

 2009年には面積5.7m2もの巨大な1枚板の薄膜シリコン太陽電池モジュールを製造する装置が登場。太陽電池製造に必要な製造装置をセットで販売し、工場の設置先では原料を入れて、始動ボタンを押せばよいだけという「ターンキー」思想が広がり、世界各地にメガソーラー用の太陽電池工場が立ち上がるかに見えた。

 しかし、誤算があった。2002年に研究室で16%超を記録した小セルの変換効率の記録はその後7年も破られることがなかった(図1)。変換効率が上がらない*1)

 図1には1995年以降の各種太陽電池セルの変換効率の世界記録(研究室レベルの小型セル)を示した。青色で示されているのがシリコンを使った太陽電池技術だ。1番上にある白抜きの四角は集光技術を利用したもの。その下にある四角が単結晶シリコン、丸が三洋電機・パナソニックのHIT太陽電池技術、白抜きの四角が多結晶シリコン、青色としては1番下にある白抜きの逆三角形が薄膜シリコンだ。2013年時点では米国で採用されているCdTe(カドミウムテルル太陽電池、黄色を囲む緑色)や日本でも広く使われているCIGS(銅インジウムガリウムセレン太陽電池、緑色の丸)とほぼ同一水準にある。

*1) この他、製造後に太陽光にさらすと出力が10%程度低下した後にそのまま落ち着く「光劣化現象」にも悩まされた。

yh20130731Kaneka_NREL_590px.jpg 図1 各種技術を用いた太陽電池セルの変換効率の記録。出典:米国立再生可能エネルギー研究所(NREL)の公表資料の一部を抜粋

 実際には薄膜シリコン太陽電池の勝負はさらに分が悪い。研究室レベルの1cm角程度のセルから1m規模のモジュールに規模を拡大したとき、量産性はともかくとして、2013年時点でCdTeは16.1%、CIGSも14.6%に達しているのに対し、薄膜シリコンでは10%に達していないからだ。

 そこで、各社が採ったのがシリコンの薄膜を2層に増やすという戦略だ。ガラス基板上にまず結晶化(多結晶化、微結晶化)したシリコン薄膜を作り込む。その後、その上に従来と同じアモルファスシリコン薄膜を載せる。

 こうすると、アモルファスシリコン薄膜が比較的短い波長の太陽光を吸収、その後、多結晶シリコンが比較的長い波長の太陽光を吸収し、合計すると、アモルファスシリコン薄膜1層よりも出力電圧が高くなる。つまり変換効率が上がる。カネカによれば、2007年時点で既にモジュールの変換効率が12%に達していた。このとき同社は既に後述する透明中間層を積層することでも効率を高めていた。

 だが、それ以降は変換効率があまり高まらないことから、結晶シリコン太陽電池や化合物太陽電池との差も縮まっていない。現在のメガソーラーに採用されている太陽電池は多結晶シリコンが最も多い。次いで単結晶シリコンや化合物半導体(CIGSやCdTe)を用いたものだ。薄膜シリコンの特徴である低コストでも十分対抗できていない。

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