原子力から太陽光や小水力へ、エネルギーの多元化に未来を託すエネルギー列島2013年版(20)福井

福井県は原子力発電だけではない。未来に向けたエネルギーの拠点を目指して、太陽光や小水力発電によるエネルギーの多元化に取り組んでいる。市町村ごとに地域の特性を生かした再生可能エネルギーの導入を推進中だ。市民による共同発電所の建設プロジェクトも広がっている。

» 2013年08月13日 09時00分 公開
[石田雅也スマートジャパン]

 福井県は2005年に「エネルギー研究開発拠点化計画」を策定して、最近まで原子力発電に関連する研究開発に注力してきた。2013年からは新たにエネルギーの多元化を施策に加えて、太陽光や小水力発電などの再生可能エネルギーを促進することを宣言した。具体的な取り組みのひとつが「1市町1エネおこしプロジェクト」である。

 県内に17カ所ある市町村が地域の特性に合った再生可能エネルギーを開発する計画で、これまでに10の市町村が協議会を設置して具体的なプロジェクトを開始した(図1)。原子力発電所が集まる若狭湾の周辺でも、美浜町で小水力発電、高浜町では森林資源を活用した木質バイオマス発電を「エネおこし」で検討している。

図1 「1市町1エネおこしプロジェクト」の取組み状況(画像をクリックすると拡大)。出典:福井県安全環境部

 海も川も山もあって自然に恵まれた福井県だが、国内最大の原子力発電の拠点であるために、再生可能エネルギーの導入では大きく後れをとってきた。北陸3県の中では導入量が最も少なく、石川県の半分以下、富山県と比べると5分の1以下の規模にとどまっている。全国でも41番目と低い順位にある(図2)。

図2 福井県の再生可能エネルギー供給量。出典:千葉大学倉阪研究室、環境エネルギー政策研究所

 こうした状況の中で先行して再生可能エネルギーの導入に取り組んだのは電力会社と市民だった。福井県で3つの大規模な原子力発電所を運営する関西電力が同じ地域で2つの太陽光発電所の建設を進めている(図3)。

 建設予定地は原子力発電所が立地する高浜町、おおい町の2カ所である。それぞれ発電規模は500kWで、2つを合わせてメガソーラーになる。おおい町の「若狭おおい太陽光発電所」が2013年度に、高浜町の「若狭高浜太陽光発電所」が2014年度に運転を開始する予定だ。

図3 若狭地域の太陽光発電所の建設予定地(上)、「若狭おおい太陽光発電所」の完成イメージ(下)。出典:関西電力

 電力会社のメガソーラーでは北陸電力が2012年9月から、北部の坂井市で「三国太陽光発電所」を稼働させている(図4)。火力発電所に隣接する所有地に建設したもので、発電能力は1MW(メガワット)、年間の発電量は100万kWhを見込んでいる。一般家庭で300世帯分の電力使用量に相当する。

図4 「三国太陽光発電所」の全景と所在地。出典:北陸電力

 一方で発電規模は小さいながら、市民の共同出資によって発電所を建設する活動が2000年から始まっている。「ふくい市民共同発電所を作る会」が中心になって推進するプロジェクトで、これまでに福祉施設の屋根などを対象に合計40kWの発電設備を設置してきた(図5)。

 このプロジェクトには地元の自治体が広報活動で協力するほか、福井信用金庫が出資者に加わる。北陸電力に売電する収益をもとに、出資金に対する配当は20年間にわたって年率2.5%を想定している。もちろん日射量や発電設備の稼働状況によって配当は変わり、元本も保証されない。重要なことは再生可能エネルギーに期待をかける市民の熱意が集まる仕組みを用意している点だ。福井県だからこそ意義は大きいと言える。

図5 市民共同発電所の仕組み(上)と設置例(下)。出典:ふくいソーラー市民ファンド

 現実には福井県を含めて日本海側の地域は日射量がさほど多くなく、必ずしも太陽光発電に適しているわけではない。むしろ再生可能エネルギーの中では小水力発電の可能性が大きく残っている。福井は米を中心に農業が盛んで、用水路も数多くある。「1市町1エネおこしプロジェクト」でも5つの市町村が小水力発電の導入を検討中だ。

 そのうちのひとつが福井市内を流れる二枚田川(にまいだかわ)のプロジェクトである(図6)。この川には土砂災害を防止するための砂防設備があって、小水力発電に利用できる落差のある水流が存在する。小さな落差でも発電が可能なシステムを導入する計画である。

図6 小水力発電を導入する福井市の二枚田川。出典:福井市再生可能エネルギー導入促進協議会

 小水力の場合は発電量が小さいために、採算性の面で実施までこぎつけないケースが多くある。二枚田川のプロジェクトが成功すれば、ほかの候補地でも導入意欲が高まっていく期待は大きい。

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