メガソーラーが県内47カ所に急拡大、6年も前倒しで目標達成へエネルギー列島2013年版(43)熊本

熊本県内でメガソーラーの建設ラッシュが加速している。稼働前の発電設備を含めると47カ所に広がって、県が掲げる2020年度の導入目標に早くも到達する勢いだ。その多くは西側の有明海から八代海までの沿岸部に集中する。県民参加型の発電プロジェクトも2カ所で始まった。

» 2014年01月28日 09時00分 公開
[石田雅也スマートジャパン]

 年間の日照時間が長い九州の中でも、熊本県のメガソーラーの増加ぶりが目立つ。2013年末の時点で28カ所が稼働中で、さらに稼働前のものを加えると47カ所に広がる(図1)。その多くは西側の沿岸部に集まっていて、特に規模の大きなプロジェクトが鹿児島県に近い芦北町(あしきたまち)で見られる。

図1 熊本県内のメガソーラー導入状況(2013年12月20日時点)。出典:熊本県商工観光労働部

 稼働中のメガソーラーでは、発電能力が8MW(メガワット)の「SGET芦北メガソーラー発電所」が2013年12月に運転を開始している。海に面した約10万平方メートルの町有地に、3万3000枚の太陽光パネルを設置した(図2)。年間の発電量は885万kWhを見込んでいて、一般家庭で2500世帯分の使用量に相当する。約7500世帯を抱える芦北町の3分の1をカバーできる計算だ。

図2 「SGET芦北メガソーラー発電所」の立地と全景。出典:スパークス・グリーンエナジー&テクノロジー

 芦北町は温暖な気候に恵まれ、甘夏みかんの産地としても知られる。長い日照時間を生かして、さらに大規模なメガソーラーの建設が町内で進んでいる。もともと牧場があった33万平方メートルの広大な町有地に、ゼネコン大手の大林組が21.5MWのメガソーラーを建設中だ(図3)。

 年間の発電量は2300万kWhを想定していて、6600世帯分の使用量に匹敵する。稼働中のSGET芦北と合わせれば、町内の全家庭に電力を供給しても余る状態になる。運転開始は2014年3月を予定していて、この時点で芦北町は再生可能エネルギーによる電力の自給率が100%を超える。

図3 芦北町の牧場跡地に建設するメガソーラーの完成イメージ。出典:大林組

 熊本県の沿岸部では、最北端に位置する荒尾市でも巨大なメガソーラーの建設計画が動き出している。福岡県に隣接する荒尾市には、かつて国内有数の規模を誇った「三池炭鉱」の設備が数多く存在していた。その跡地の一部に22.4MWのメガソーラーを建設する(図4)。

 三池炭鉱を運営していた三井グループがソフトバンクグループと共同で事業化するプロジェクトである。年間の予想発電量は2200万kWhに達して、6300世帯分の使用量に相当する。世帯数が約2万ある荒尾市の3分の1をカバーできる規模になる。

図4 「ソフトバンク熊本荒尾ソーラーパーク」の建設予定地(同時に建設を進める「大牟田三池港ソーラーパーク」は福岡県にある)。出典:SBエナジー、三井物産

 これまでに熊本県内で建設が決まっている47カ所のメガソーラーを合計すると、発電能力は140MWを超えた。県が2012年に策定した「総合エネルギー計画」では、2011年度に2カ所しかなかったメガソーラーを2015年度に30カ所、2020年度に50カ所に拡大する目標を設定した。発電能力は2015年度に141MW、2020年度には221MWに増やす構想だ。

 すでにメガソーラーの件数は2020年度の目標に近づき、6年も前倒しで達成する状況になってきた。発電能力の点でも、計画中の設備が稼働すると2015年度の目標をクリアすることができる。

 大企業や自治体ばかりではなく、地元の企業や市民も発電プロジェクトに参加する。熊本県がエネルギーの地産地消を目的に推進する「くまもと県民発電所」の取り組みが活発になってきた。

 県民発電所は自治体が所有する遊休地を活用して、県が認証した事業者が運営する形式をとる。選ばれた事業者は地場の金融機関から融資を受けながら、地域の住民や企業の出資によるファンドを運営して発電事業を進めていく(図5)。

図5 「くまもと県民発電所」の事業スキーム。出典:熊本県商工観光労働部

 現在までに2カ所でプロジェクトが決まった。1つは芦北町の海岸から目の前に広がる天草諸島の上島(かみしま)で、廃校になった高校のグラウンドに0.8MWの太陽光発電設備を設置する。もう1つは荒尾市に隣接する玉名郡の廃棄物処理場を活用した2MWのメガソーラーである。いずれも事業者が決まって、2015年に運転を開始する予定だ。

 今後は太陽光以外の再生可能エネルギーにも県民発電所のスキームを展開していく。熊本県には小水力をはじめ、地熱・風力・バイオマスの資源が豊富にある。これまでのところ小水力の導入量が最大だが、地熱や太陽熱の利用量も多い(図6)。

図6 熊本県の再生可能エネルギー供給量。出典:千葉大学倉阪研究室、環境エネルギー政策研究所

 最近ではバイオマスの先進的なプロジェクトが始まった。熊本市の下水処理場で2013年4月に開始したバイオ燃料の製造である。市内から集まる下水の汚泥を乾燥・炭化して固形のバイオ燃料を作る。1日あたり50トンの汚泥を処理して、年間に2300トンの燃料を製造することができる。

 このバイオ燃料は200キロメートル離れた長崎県の松浦市にある2カ所の火力発電所に供給している(図7)。火力発電所で石炭に混ぜて利用することにより、石炭だけで発電する場合と比べてCO2の排出量を年間に3400トンも削減できる。生物由来のバイオマスを活用した温暖化対策の1つである。

図7 「熊本市南部浄化センター」で実施している下水汚泥の固形燃料化事業(画像をクリックすると拡大)。出典:電源開発

*電子ブックレット「エネルギー列島2013年版 −九州・沖縄編 Part1−」をダウンロード

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