阪神電車が「軽さ」を選ぶ、駅に適した太陽電池自然エネルギー

太陽電池を設置する場合、重さが課題になる場合がある。そもそも重量物を載せることを想定していない屋根には補強工事が必要になるからだ。阪神電気鉄道は通常の約50%と軽い太陽電池を選択することで、設置工事の課題をクリアした。

» 2014年04月02日 07時00分 公開
[畑陽一郎,スマートジャパン]
図1 神戸市灘区と大石駅の位置

 「通常の太陽電池モジュールと比較して約50%軽い製品を選択したため、駅の屋根を支える柱や梁(はり)の補強が不要となった。工期も約3割短縮できた」(阪神電気鉄道)。

 2014年1月上旬に同社の本線にある大石駅(神戸市灘区船寺通、図1、図2)で設置工事を開始、同4月1日に運用を開始できた。工期が約90日と短くなったのは、補強工事が不要になったことに加え、太陽電池モジュールを1人で運べたためだという。

 太陽電池モジュールを設置したのは大石駅の上りと下り、各ホームの屋根だ。設置枚数は540枚。モジュールの合計面積は810m2、モジュールの総重量は5トン。

 阪神電気鉄道は太陽電池モジュールとして、フジプレアムの「超軽量太陽電池モジュール『希(のぞみ)』*1)を選択している。1枚当たりの重量が9.5kgであり、国内最軽量だと判断したからだ。

 希は、軽量ながら出力が220Wと高い。これは単結晶シリコン太陽電池であるからだ*2)。大石駅に導入したシステムの出力は118.8kW。想定年間発電量は約12万6000kWhであり、これは大石駅の年間消費電力量の約30%に相当する。全量を駅構内で利用し、エレベーターやエスカレーター、照明施設などに割り当てる。

*1) 希はガラス厚を従来の3.2mmから0.8mmに薄型化したことで軽量化している。いわゆる化学強化ガラスを採用することで強度を維持した。具体的にはガラスを融解した硝酸カリウムに漬けることで、ガラス中のナトリウムをカリウムで置換。カリウムのイオン半径がナトリウムより大きいことから生まれる圧縮応力で強度を保つ。
*2) 採用した太陽電池モジュールのモジュール変換効率は15.07%。

図2 太陽電池モジュールを設置した大石駅 出典:阪神電気鉄道

独自の保護システムを開発

 同社が太陽光発電システムに取り組んだ最初の事例は、2010年に発電を開始した阪神甲子園球場だ。ホンダソルテックのCIGS薄膜太陽電池を「銀傘」の外周部に約1600枚設置、合計出力200kWとした。年間のナイトゲームで使うナイター照明の使用電力量に相当する約19万3000kWhを得るシステムだ。

 駅への設置は、今回が最初の事例である。「今後は大石駅で太陽光発電の有効性を検証し、複数の駅に設置していきたい。日照やホーム屋根の面積が設置条件として重要であり、屋根の更新時期なども見ながら進めていく」(同社)。

 今後は太陽光発電システム導入に関するノウハウをグループ内外に展開したいという。設計・調達・建設(EPC)と保護システムが最初のノウハウだ。EPCでは阪神グループ一体で推進した。ハンシン建設が設置工事を進め、中央電設が電気工事を、アイテック阪急阪神がIT関連に取り組んだ。

 大石駅の太陽光発電システムには、鉄道会社らしい安全性確保策も施されている。電気的な異常を早期発見し、故障した回路を自動的に遮断する保護システムを設計、導入した。

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