「液体電池」で600km走る車、給水が充電電気自動車(3/3 ページ)

» 2014年07月25日 07時00分 公開
[畑陽一郎スマートジャパン]
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nanoFLOWCELLは何を改良したのか

 レドックスフロー蓄電池の性質を理解すると、リチウムイオン蓄電池と比較して車載用途には向かないことが分かるだろう。ヌンツィオ・ラ・ベッキア氏は、1L当たりに蓄えられる電力量(エネルギー密度)と1秒間に放出できる電力(パワー密度)を高めることができない限り、車載用途は開けなかったと語っている。かさばりすぎる上に、少しずつしか電力を取り出せなかったからだ。

 nanoFLOWCELLではどのような金属イオンを採用したのか、明らかにされていない。同氏は、分子設計を通じた量子化学の応用により性能を改善したとだけ説明する。それでも結果ははっきりしている。水溶液中のイオン濃度を高く保つことができ、エネルギー密度やパワー密度が高くなったという。通常のレドックスフロー蓄電池であれば必要だった数千Lのタンクを、数百Lにまで減らすことにつながった。

 同時に蓄電池の内部抵抗を下げることにより、内部効率が80%以上に高まった。自己放電も少ない。1日当たり1%以下だ。これらの成果が、レドックスフロー蓄電池(nanoFLOWCELL)で動作する史上初の電気自動車を生み出したのだという*4)

 同社はnanoFLOWCELLの性能を分かりやすく示すために、同電池を鉛蓄電池とリチウムイオン蓄電池、従来型のレドックスフロー蓄電池、ディーゼルエンジンと比較した表を公開している(図6)。

*4) 電気自動車を設計する際に、リチウムイオン蓄電池と比べて、もう1つ長所があるという。充放電時にほとんど熱を発しないことだ。現在の電気自動車ではリチウムイオン蓄電池の温度管理に最新の技術が使われている。これが不要になる。

図6 各種電池の基本性能の比較 出典:nanoFLOWCELLが公開した資料に基づいて作図

 黄色を敷いたレドックスフロー蓄電池とnanoFLOWCELLを比較すると、出力密度(1kgの電池が出力するパワー)は600倍、エネルギー密度(1kgの電池が蓄える電力量)は5倍に高まっている。出力密度が高まると、1秒間当たりに利用可能な電力が増える。電気自動車であれば瞬発力(加速)が向上する。エネルギー密度の数値が増えると、電池を小型化でき、小さな電池でも長距離を走行できる。

 図6から分かるように、リチウムイオン蓄電池と比較しても、出力密度で1.5倍、エネルギー密度で5倍に達している。nanoFLOWCELLは確かに電気自動車に向いている。

 エネルギー密度は重量当たりだけでなく、体積当たりの値も重要だ。nanoFLOWCELLの体積エネルギー密度は、600Wh/L*5)。これは車載用リチウムイオン蓄電池の5〜6倍に当たる数値だと主張する。

 なお、nanoFLOWCELLはレドックスフロー蓄電池と変わらぬ長所も残している。寿命だ。リチウムイオン蓄電池の1000サイクル(充放電回数)という寿命に対して、nanoFLOWCELLでは、1万サイクルでも目立った性能の低下が起きないことをうたう。

*5) QUANT e-Sportlimousineのタンク容量は1つ200L(2タンクで1組みとして動作)なので、蓄えられているエネルギーは600Wh/L×200L=120kWh。同車の電費(燃費)は20kWh/100km。600kmという走行距離は計算が合う。なお、同社によれば、QUANT e-Sportlimousineの内蔵タンクは800Lまで比較的容易に増量できるという。その場合、走行可能距離は単純計算では1200kmに伸びる。

まず自動車として確立、そして……

 ヌンツィオ・ラ・ベッキア氏は、QUANT e-Sportlimousineのスケッチを2003年に開始し、企業としてのnanoFLOWCELLを2013年に立ち上げている。電池としてのnanoFLOWCELLの開発期間は、レドックスフロー蓄電池の基礎研究を含めて14年に渡る。

 同社はドイツRobert Bosch(ボッシュ)の子会社であるドイツBosch Engineeringと2014年2月に提携を結んでおり、車載電装品の開発を共同で行う。同氏によれば2014年中に5つのプロトタイプを設計開発する他、公道走行許可の次のステップとして、QUANT e-Sportlimousineの連続生産に向けた正式承認を取得するという。

 イエンスペーター・エレルマン氏は、ヌンツィオ・ラ・ベッキアのビジョンで始まった電気自動車の開発が、ジュネーブモーターショーの4カ月後に公道使用許可という形で結実したこと、それほど短期間で承認が下りるほど「成熟した」技術であることを強調している。そもそもレドックスフロー蓄電池は、定置型大容量電池として優れている。このため、同氏はnanoFLOWCELLを電気自動車用だけにとどめておく必要はないとし、海運や鉄道、航空といった産業にも適したソリューションだと主張する。

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