エネルギー問題を助ける「水素」、燃料電池車に弱点はないのか小寺信良のEnergy Future(1/4 ページ)

トヨタ自動車が2014年12月15日に発売する世界初の量産型の燃料電池車「MIRAI」。燃料電池車はガソリン車や電気自動車と比較して、どこが優れているのか。優れていたとしても「水素」が弱点になることはないのか。小寺信良がエネルギーからMIRAIを見た。

» 2014年12月09日 07時00分 公開
[小寺信良,スマートジャパン]

 2014年12月15日、世界初の量産型燃料電池車(FCV)である「MIRAI」をトヨタ自動車が発売する(図1)。価格は723万6000円(税込)。購入の際には経済産業省から202万円の補助金が支給されるため、実際の負担額はおよそ520万円となる*1)

 当初は1000万円を切るかどうかと言われていたMIRAIだが、結果的にはおよそ半額で購入できる。ただし、初年度の生産台数は400台、しかも現時点で既に200台が受注済みということなので、今から注文しても1年後に届くかどうかは微妙なところだ。現時点の購入者は主に中央官庁、自治体、法人が中心だという。

 ホンダはトヨタの発表の前日にFCVのプロトタイプを発表。自動車業界はにわかに活気づいている。今回は日本科学未来館でトヨタが発表したMIRAIを振り返り、水素社会の姿を考えてみたい。車自体というよりも、エネルギーの面からMIRAIを見ていく。

*1) トヨタ自動車は、エコカー減税(自動車重量税:約3万円、自動車取得税:約18万900円)と自動車グリーン税制(翌年度の自動車税:約2万2000円)、CEV補助金(最大約202万円)の合計である約225万2900円の優遇が受けられるとしている。

図1 トヨタ自動車が11月18日に正式発表した燃料電池車「MIRAI」

電気自動車と何が違うのか

 ハイブリッド車の未来を切り開いたのが、トヨタのプリウスであることは、異論のないところだろう。トヨタは1960年代という早い段階から既にハイブリッド車の研究を開始している。70年代のガスタービンハイブリッド開発を経て、1993年にプリウスの開発を開始、「21世紀に間に合いました」をキャッチフレーズに、1997年、一般販売を始めた。現在は同社の全カテゴリ(車種)にハイブリッド車をラインアップしている。

 ご存じのようにハイブリッド車は、ガソリンエンジンと蓄電池をモーターと組み合わせたシステムで、ガソリンエンジンは発電機の役割も果たす。乱暴に言えば、そこからガソリンエンジンを抜いたものが電気自動車(EV)。EVは自前の発電システムを持たないため、充電したのち走行、電気がなくなったらまた充電を繰り返す。

 EVは電気だけを使うため、エコカーとしてはハイブリッド車よりも優秀だが、充電時間が長いという弱点がある。日産自動車「リーフ」の例では、家庭での普通充電で8時間、急速充電が可能なスタンドへ行けば、約30分で80%の充電が可能だ。30分とはかなり早いものの、それでも給油のように待っている間に完了というわけにはいかない。

図2 発表会ではエンジン音を響かせることなくMIRAIが舞台に乗り入れてきた

 一方でFCVは、エンジンの代わりに燃料電池を搭載、モーターで駆動する(図2)。燃料電池と聞くと電池の一種のように聞こえるが、実際には発電機である。簡単に言えば、水の電気分解の逆を進める装置で、水素と酸素を化学反応させて水と電気を得る。燃料電池については、以前別の連載で詳しく調べたことがあるので、仕組みなどについては参照いただければと思う。

 MIRAIに搭載された燃料電池は、小型ながら最高出力114kWを瞬時に生み出す。産業用燃料電池のほぼ1基分に相当する規模で、一般的な家庭用「エネファーム」と比較すると実に160倍以上という能力の高さだ。燃料電池は専門メーカーから調達することが多い部品だが、トヨタは自社開発・自社製造にこだわった。これからさらに改良していくためには、自分たちで技術を持っておく必要があると考えたからだという。

 産業用やエネファーム用の燃料電池は、水素を内部で作り出すために都市ガスを利用することが多い。そもそも移動する装置ではないし、既存の配管インフラを利用すれば、低コストで確実だからだ。だが車に搭載するときはそうはいかない。走り回るためには、水素ごとタンクに入れて移動することになる。

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