エネルギー問題を助ける「水素」、燃料電池車に弱点はないのか小寺信良のEnergy Future(3/4 ページ)

» 2014年12月09日 07時00分 公開
[小寺信良,スマートジャパン]

水素を注入し、電力を取り出す

 MIRAIはタンク内に蓄えた水素で約650km走行する。一般的なガソリン車の走行距離と比べると、2割程度長いぐらいだろうか。現時点では水素ステーションの数も十分ではないため、途中で水素切れにならないよう、大目に積んだということである。タンクへの充填では、専用の水素ステーションを利用し、3分程度で完了するという(図7)。これなら、ガソリン車と同等の使い勝手になるだろう。

図7 いわゆる給油口に相当する「水素充填口」

 燃料電池は、発電時に大量の熱が発生する。産業用燃料電池では、この熱も給湯などに利用するため、総合エネルギー効率が9割を超える。だがMIRAIでは、この熱を利用しない。従って放熱する必要がある。一般の車と同じくラジエーターを使って水冷する仕組みだ(図8)。

図8 前面にはかなり大きなラジエーターを置いた(クリックで拡大)

 燃料電池による発電では副産物として水ができる。この水も現時点では利用手段がなく、車の底部から定期的に排出される。どこでも水を吐くというのは、寒冷地では路面の凍結につながるため、将来は何らかの見直しが必要だろう。

電力を大量に取り出すことができる

 車内にはAC(交流)コンセントがある。100V(1500W)の電力供給が可能だ。このあたりは現在のハイブリッド車の仕様と同等である。

 MIRAIの特徴は後部トランクの奥に専用のDC(直流)出力ポートを備えていること(図9)。ここに給電器を接続すると、直流と交流を変換でき、MIRAIが電源車に変わる(図10)。供給できる最大電力量は約60kWh。最大9kWまで供給可能だ。発表会場ではニチコンが開発した給電器を接続して、電源供給のデモを見せていた(図11、関連記事)。

図9 後方トランク内左上にDC出力ポートを配置(クリックで拡大)
図10 DC出力ポートに接続する給電器のコネクタ
図11 給電器本体 デモではニチコンの製品を使用した

 給電時のMIRAIは通常走行モードではなく、給電専用のモードとなる。その際、車内のコンセントは利用できない。例えば災害時に電気が必要なところにMIRAIで乗り付け、そこで発電機として使用するというイメージだ。

 ただし給電できるのは、給電器がある場所に限られる。災害に備えるのであれば、役場や避難所などに給電器を常設しておかなければならない。給電器が何か他のことに利用できるのであれば常設する意味はあるだろうが、MIRAIのためだけに設置しておくというのはあまり現実的ではない。将来はもっと小型の給電器が登場して、それごとMIRAIに載せて運ぶということも考えられるだろう。例えばホンダはその方向で検討したコンセプト製品を見せている(関連記事)。

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