植物を超えたか「人工光合成」、太陽電池技術も使う自然エネルギー(1/2 ページ)

東芝は2014年12月、人工光合成の世界記録を更新したと発表した。太陽光のエネルギーのうち、1.5%を化学エネルギーに転換できたという。これまでの世界記録を1桁上回る成果だ。火力発電所の排出する二酸化炭素を分離回収する技術と、今回の成果を組み合わせることが目標だという。

» 2014年12月10日 07時00分 公開
[畑陽一郎スマートジャパン]

 東芝は2014年12月、人工光合成の世界記録を更新したと発表した*1)。太陽光のもつエネルギーのうち、1.5%を化学エネルギーに転換できたという。これまでの世界記録を1桁上回る成果だ。

*1) 2014年11月24〜28日に兵庫県で開催された人工光合成国際会議2014(ICARP2014)で発表した内容を2014年12月に公開したもの。Yoshitsune SUGANO, Akihiko ONO, Ryota KITAGAWA, Jun TAMURA, Yuki KUDO,Eishi TSUTSUMI, Masakazu YAMAGIWA, Satoshi MIKOSHIBA, Solar-to-CO conversion efficiency by wired PV cell system with cobalt oxide and gold nanoparticles catalysts

日本企業が人工光合成を大きく進めた

 人工光合成のパイオニアは2011年9月にギ酸(HCOOH)を合成した豊田中央研究所だ(関連記事*2)。2011年9月に発表した時点の効率は0.03〜0.04%。

 続いて2012年7月にはパナソニックが効率を0.2%まで高めた。生成したのはギ酸。2013年12月には効率は幾分下がるものの、メタン(CH4)を生成するシステムも公開している。

 東芝の1.5%という効率は、植物の光合成と比較してどの程度の能力なのだろうか。実は高等植物と比較する限り、既に上回っている。例えば増殖能力が高く(光合成の能力が高く)バイオエタノールの原料として研究が続くスイッチグラスの効率は0.2%だ(図1)。東芝の成果は、光合成の能力に優れる藻類とほぼ同程度だということができる。

*2) 特別な条件を設けることで光合成を進めた研究開発は豊田中央研究所以前にもある。同社の技術の特徴は、太陽光と同等の成分、強度の光を用いたこと、常温常圧下で反応を進めたこと、外部から電力を供給せず、酸化還元反応を仲介する試薬を使わないことだ。今回の東芝の成果もこの条件を満たしている。

図1 スイッチグラスの外観 北米のプレーリーでは主要なイネ科の雑草である

人工光合成はなぜ役立つ

 人工光合成とは、太陽光と二酸化炭素、水を用いて、燃料や資源となる物質を作り出す技術。太陽エネルギーを利用して、二酸化炭素を還元し、炭素化合物と酸素を生み出す。

 人工光合成の目標は、植物などが進める光合成。やはり太陽光と二酸化炭素、水から、グルコース(ブドウ糖)などの炭素化合物(有機物)と酸素を生み出している*3)。ヒトの食物は元をたどればほぼ100%が光合成に由来する。大気中の酸素もやはりほとんど全てが光合成によって生み出されたものだ。

 太陽光から電力を得る太陽電池は有用な技術であり、大量生産品の効率は既に20%に届いている。だが、液体燃料などを生み出すためには別の仕組みが必要だ。人工光合成を利用すれば太陽光と不要な二酸化炭素から一気に燃料を得ることができる。

 東芝は火力発電で大量に排出される二酸化炭素を分離回収するCCS(二酸化炭素の分離、回収、貯留)技術の開発を進めている(関連記事)。CCSは火力発電の弱点をいくぶんなりとも取り除くために有望な技術だ。

 「2020年代前半までに人工光合成を実用化し、CCSなどと組み合わせて役立てたい。そのためには効率10%の実現が必要だ」(東芝)。10%に至る道のりは必ずしも明らかではないが、必要な技術開発なのだという。

*3) 正確には光合成には水は必須ではない。光によって物質から水素イオンを取り出し、エネルギーと水素イオンの還元力を用いて二酸化炭素を有機物に固定する反応が光合成だ。

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