省エネよりも人員削減と原子力を優先、日本商工会議所の全国調査でスマートファクトリ

日本商工会議所が全国の会員企業を対象に実施した電力コストに関する調査で驚くべき結果が出た。今後さらに電力コストが上昇した場合の対応策として人員・人件費の削減を挙げた企業が最も多い。省エネ対策は回答の選択肢にすらなく、製造業からは原子力発電所の再稼働を求める声が上がる。

» 2015年01月27日 13時00分 公開
[石田雅也,スマートジャパン]

 地域を主体に活動する全国の商工会議所の会員企業を対象に、日本商工会議所が「電力コスト上昇の負担限界に関する全国調査」を実施して結果を公表した。調査期間は2014年11月25日〜12月10日で、回答企業数は335社である。全国の商工会議所の会員企業数は126万(2013年5月時点)にのぼることから、全体の0.03%に過ぎない少数意見ではあるものの、その調査結果には驚くような内容が含まれている。

 まず電力コストの実態だが、東日本大震災直後の2011年4月〜2012年3月の1年間と比べて、2013年9月〜2014年8月の1年間では1社平均で1000万円以上も電力コストが増えている(図1)。電力の使用量は横ばいながら、1kWhあたりの単価が28.1%も上昇したことによる。

図1 日本商工会議所の会員企業における電力コストの上昇。出典:日本商工会議所

 こうした状況において、さらなる電力コストの上昇は負担の限界に達していることを半数以上の回答企業が指摘した。1kWhあたり1円でも上昇すると負担の限界を超えると回答した企業が57%にのぼる。電気料金の相次ぐ値上げが企業にとって死活問題になっている現状が見てとれる。

 では今後も電力コストが上昇した場合に検討する対応策には何があるのか。最も多くの企業が挙げたのは「人員、人件費の削減」である。複数回答ながら過半数の56.5%に達した(図2)。次いで2番目に多かったのは「設備増強や研究開発活動の縮小・抑制」である。いずれの対応策もアベノミクスが目指す方向とは完全に逆を向いている。

図2 電力コストが上昇した場合に検討する対応策(複数回答)。出典:日本商工会議所

 回答の選択肢には、節電対策の強化や省エネ機器の導入といった前向きな対応策は含まれていない。政府は2014年度の補正予算で、「地域工場・中小企業等の省エネルギー設備導入補助金」に930億円の巨費を投入する方針を決めたばかりだ。工場や店舗の空調・照明設備をはじめ、工業炉や冷凍・冷蔵設備などに高効率の最新機器を導入しやすくする狙いだが、導入する側に意欲がなければ補助金も空振りに終わる。

 さらに調査結果の末尾には、「エネルギー政策全般に関する中小企業の声」が5つ挙げられている。そのうち3件は原子力発電所の再稼働を求めていて、一方で再生可能エネルギーを疑問視する意見が原子力との重複を含めて3件ある。その多くは製造業の意見である。電力会社に対する批判の声はいっさいなく、まるで電力会社の意向を代弁しているかのような意見が並ぶ。

 電力コストの上昇を機に未来に向けて古い設備を更新するどころか、過去に逆戻りすることを望んでいるのだろうか。これでは日本の地域産業の将来は暗いと言わざるを得ない。ただし回答企業のうち1割は「電力コストが上昇しても影響はない」と強気の姿勢を見せている。そうした力強い企業が未回答の企業の中にも数多く存在することを期待したい。

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