小売自由化で電力の契約方法が変わる、手続きはシステムで対応動き出す電力システム改革(32)

2016年4月に始まる小売全面自由化に伴って、電力の市場構造は抜本的に変わる。事業者を発電・送配電・小売の3区分に再編する一方、中立的な立場の広域機関が事業者と需要家の仲介役を担う。契約の変更手続きはシステムで対応できるようになり、家庭だけではなく企業の移行も促進する。

» 2015年02月24日 15時00分 公開
[石田雅也スマートジャパン]

第31回:「広域機関が7種類の業務を4月1日開始、500社を超える電気事業者が対象」

 小売の全面自由化は家庭向けの電力市場を開放するだけにとどまらない。企業向けを含めて市場の構造全体が一変する。それを象徴するのが事業者の区分方法だ。従来は発電・送配電・小売のすべてを担う電力会社が「一般電気事業者」として市場の中核を形成してきた。

 2016年4月から電力会社は「発電事業者」「一般送配電事業者」「小売電気事業者」の3つに分かれて、多数の発電事業者や小売電気事業者と同じ位置づけになる(図1)。従来のように地域独占で事業を展開できるのは送配電だけだが、その領域でも重要な役割は「電力広域的運営推進機関」(略称:広域機関)に移管されていく。

図1 小売全面自由化に伴って導入する事業者の新しい区分方法。出典:広域的運営推進機関設立準備組合

 もはや電力会社は特別な扱いを受けない。これまで国に提出していた供給計画は2016年度から、他の事業者と同様に広域機関を通して提出する形になる(図2)。発電計画や需給計画のほか、地域間を結ぶ連系線の利用計画もすべて広域機関が集約する。そのために必要なシステムを広域機関が用意して2016年4月に運用を開始する予定だ。

図2 供給計画の提出ルート。出典:広域的運営推進機関設立準備組合

 同時に電力会社と需要家の関係も抜本的に変わる。需要家が契約を締結する相手は電力会社ではなくて小売電気事業者になる。企業が利用する高圧や特別高圧の場合には基本的な契約の流れは従来と同じだが、家庭や商店などの低圧の需要家に対しては新たに契約プランの相談サービスが加わる(図3)。

図3 小売全面自由化後の契約変更手続き。出典:広域的運営推進機関設立準備組合

 需要家から相談を受けた小売電気事業者は契約プランを提案するために、一般送配電事業者(現在の電力会社の送配電部門)から需要家の電気設備や電力使用量の情報を取得できるようになる。それをもとに電力会社よりも魅力的なプランを需要家に提案して契約変更を促進する仕組みだ。

 こうした契約変更の手続きに対しても広域機関がシステムを用意して事業者を支援する。「スイッチング支援システム」と呼ぶもので、小売全面自由化に先だって2016年3月までに稼働する予定だ。需要家が電力の供給契約を切り替えるのと合わせて、一般送配電事業者は電力の供給者を切り替える託送契約の変更手続きをスイッチング支援システムで実行する(図4)。手続きを完了するまでの時間が大幅に短縮できる。

図4 スイッチング支援システムによる契約変更。出典:広域的運営推進機関設立準備組合

 スイッチング支援システムは低圧の需要家だけではなくて、高圧や特別高圧の需要家が契約を変更する場合にも使われる。システムが提供する機能は4種類あって、高圧でも契約電力が小さい500kW未満であれば託送契約の変更手続きまで処理することが可能になる(図5)。

図5 スイッチング支援システムの機能と対象範囲。出典:広域的運営推進機関設立準備組合

 契約電力が大きい500kW以上では電力使用量の情報だけをスイッチング支援システムで提供する。託送契約の変更や設備情報の提供は需要家の電気設備が複雑になるため、当初は対応できない。ただし2020年4月に実施する予定の発送電分離までにはシステムで対応できるようにして、電力市場の自由競争を加速させることが望ましい。

第33回:「小売全面自由化で再エネの買取制度が変わる、卸電力市場の取引価格に連動」

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