電力自由化は“バラ色の未来”をもたらすわけではない(前編)電力供給サービス(1/3 ページ)

電力自由化により、電気事業者はもうかり、消費者は安い電気代を選べる――。そんなバラ色の将来像は夢物語に終わるかもしれない。グローバルでエネルギー事業を展開するシーメンスは、電力システム改革における今後の展望と課題について解説した。

» 2015年09月11日 07時00分 公開
[三島一孝ITmedia]

 電力システム改革により、大手電力事業者が独占してきた電力の発電、送配電、小売市場が開放されようとしている。多くの新規事業者が参入し、競争環境が生まれることにより、消費者にとっては、サービスの向上や電力コストの削減などにつながるという期待が高まっている。一方で電力事業者や新たな参入企業にとってもさまざまなビジネスチャンスが生まれ、特に地方の企業にとってはチャンスをうかがっている状態だといえる。しかし、これらの期待通りの結果が日本市場において本当に得られるのだろうか。全世界で火力発電所のタービンや風力発電機器などの展開を行っているドイツのシーメンスはこうした楽観的な見通しに対して警鐘を鳴らす。

 同社は2015年9月10日、全世界のエネルギー市場のトレンドを解説するとともに日本の電力システム改革の課題について説明する記者会見を開催した。本稿では、前編で電力システム改革の前提となる世界のトレンドについて、後編でトレンドを踏まえた日本の電力システム改革における展望と課題について紹介する。

全世界のエネルギー産業を覆う4つのトレンド

photo シーメンス 取締役で風力発電や再生可能エネルギー事業などを統括するリサ・デイビス氏

 シーメンスではエネルギー産業を取り巻く環境は主に4つの中心的トレンドによって動いているという。

 シーメンス 取締役で風力発電や再生可能エネルギー事業などを統括するリサ・デイビス(Lisa Davis)氏は「世界規模でCO2(二酸化炭素)削減に向けた取り組みが広がる中、再生可能エネルギーへの取り組みは世界的に今後も増えていく。新たなエネルギー環境において考えなければならない点には、気候保護とともに資源の有効活用や経済性、確実な電力供給、政府や地域などからの賛同を得ることなど、さまざまな課題が存在する。その中で『効率化』『分散化』『クロスオーバー(複合化)』『ファイナンス』4つの大きなトレンドが生まれている」と語る。

効率化

 1つ目のトレンドが効率化である。全世界のエネルギー需要が高まりを見せる一方、CO2排出量の削減も実現しなければならない状況であることを考えれば、より低コストで高効率にエネルギーを生み出すことが重要であるのは明らかだ。

 シーメンスではその中で「効率だけで見れば天然ガスが最も良い」(デイビス氏)とし、高効率発電技術の鍵を握るのがコンバインドサイクル発電プラント(CCPP)だと指摘する。火力発電には、空気を熱して発電用のタービンを回す方法と、水を熱して発生する蒸気でタービンを回す方法の2つがあるが。この2種類を組み合わせた発電方法がコンバインドサイクルである。デイビス氏は「再生可能エネルギーのバックアップの意味でも重要性は増している」と述べている(図1)。

photo 図1 CCPPの主要なオペレーションのパラメータ(クリックで拡大)出典:シーメンス

 発電方法の効率化とともに「ICTを活用した総合的な電力システムの効率化なども需要だ」とデイビス氏は強調する。例えば同社では風力発電タービンをIoT(Internet of Things、モノのインターネット)などの技術を使って、モニタリング(監視)し、その得られたデータを解析することで、最適なオペレーションを実現しているという。風力発電の故障やトラブルなどは現状では多くの場合、作業員を派遣して確認を行っているが、同システムを導入後、85%が遠隔で問題解決することができたという。

 その他、最新のソフトウェアの活用や古い火力発電所の更新などの取り組みも重要だとしている。

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