原子力発電所と火力発電所の選別が進む、2030年に設備半減へ2016年の電力メガトレンド(5)(2/4 ページ)

» 2016年01月15日 09時00分 公開
[石田雅也スマートジャパン]

原子力と再エネは共存できない

 政府は2030年の電源構成(エネルギーミックス)の中で原子力の比率を20〜22%に回復させる目標を掲げた(図4)。そのためには建設中の原子力発電設備を含めて全国で46基のうち35〜40基を稼働させる必要がある。しかし現状では新設・増設はもとより再稼働のハードルも極めて高い。

図4 2030年の電源構成と温室効果ガスの削減目標。出典:資源エネルギー庁 

 たとえば合計7基で構成する東京電力の「柏崎刈羽原子力発電所」の場合には、事故を起こした「福島第一原子力発電所」の原因究明が進まない限り、立地自治体の新潟県の同意を得ることはむずかしい。同様に東日本の北海道と東北にある原子力発電所も周辺住民の反対が強く、建設中の2カ所を含めて運転開始のめどは立っていない。

 福島の事故でもたらされた教訓の1つは、大規模な発電設備に依存してしまうと、事故やトラブルで運転が停止した時に供給力が一気に低下して広範囲の停電につながる問題だ。再生可能エネルギーを中心に小規模の発電設備を分散させれば、特定の発電設備の影響を受けにくくなる。災害に強い電力システムを構築するためには集中型から分散型へ移行する必要があり、その点でも原子力発電は時代の流れに逆行する。

 もう1つの原子力発電の問題点は出力を調整しにくいことだ。政府は出力が一定の原子力発電を「ベースロード電源」と位置づけている。このベースロード電源の比率が大きくなると、せっかく太陽光で発電できる状況でも出力を抑制しなくてはならない事態が発生する(図5)。

図5 電力需要が最小の日(5月の晴天日など)の需給イメージと対策。出典:資源エネルギー庁 

 以前は原子力と火力の組み合わせで需給バランスを調整してきた。これから再生可能エネルギーを拡大するためには、水力・地熱・バイオマスをベースロード電源に利用しながら、太陽光と風力の出力変動に合わせて火力発電で調整する方法が望ましい。原子力と再生可能エネルギーの両方を増やすことは電力の需給面で無理がある。

 このほかに使用済み核燃料の処理計画が進んでいないことも国民を不安にさせている。原子力発電所が再稼働すると、発電所の中に使用済み核燃料がどんどん貯まっていく。2015年8月に運転を再開した川内原子力発電所では、すでに使用済み核燃料の貯蔵量が890トンにのぼり、今後10年程度で限界量に到達する見通しだ。全国各地にある原子力発電所のうち、半数以上は再稼働すると10年以内に貯蔵量の限界に達してしまう。

 現在までに適合性審査を申請していない原子力発電設備も全国で合計20基ある。このうち運転開始から30年以上を経過した発電設備が8基あり、今後10年以内に運転延長を申請するか廃炉にするか決断を迫られる。東京電力が4基で最も多く、関西電力と四国電力が2基ずつ、東北電力と九州電力にも1基ずつ残っている。

 廃炉の判断が遅れると、発電設備の解体を完了する時期も遅くなり、電力会社のコスト負担が増加する。いち早く中部電力が2009年に運転を終了した「浜岡原子力発電所」の1・2号機の廃炉計画は4段階に分けて2036年度に完了する予定だ(図6)。実に28年もかかる長期間の作業を、放射性廃棄物の処理を進めながら慎重に実行しなくてはならない。他の電力会社も計画的に廃炉に取り組まないと、危険な状態が長引くばかりである。

図6 「浜岡原子力発電所」の1・2号機の廃炉計画。出典:中部電力 

 と同時に2030年に国全体のCO2(二酸化炭素)の排出量を公約どおりに削減するためには、エネルギーミックスの目標に掲げた火力発電の低減は必ず実行しなくてはならない。もし原子力発電の目標値を達成できない場合には、再生可能エネルギーを目標以上に増やすか、火力発電の効率を引き上げてCO2の排出量を減らすことが急務になる。

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