太陽電池の新顔「ペロブスカイト」、18.2%の記録が意味するもの蓄電・発電機器(1/3 ページ)

太陽電池の変換効率の記録がまた1つ登場した。物質・材料研究機構(NIMS)は、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の支援を受けて、ペロブスカイト構造を採る太陽電池を改良。標準面積セルで18.2%という効率を得た。開発チームを率いる韓礼元氏に研究内容の要点を聞いた。

» 2016年03月30日 13時00分 公開
[畑陽一郎スマートジャパン]

 「ペロブスカイト太陽電池」の勢いが止まらない。物質・材料研究機構(NIMS)は、2016年3月28日、太陽電池セルの変換効率18.2%を実現したと発表した(図1)。NIMSの太陽光発電材料ユニットに属する韓礼元(ハンリュアン)氏の研究グループが開発したもの*1)。今後改良を重ね、2016年中にセル変換効率20%を目指す。

*1) 今回の研究は、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「高性能・高信頼性太陽光発電の発電コスト低減技術開発」(プロジェクト番号P15003)によって成果の一部を得たもの。

図1 ペロブスカイト太陽電池セルの外観 2015年11月に公開したペロブスカイト太陽電池セルの外観。今回の太陽電池セルとほぼ同等の構造である。出典:物質・材料研究開発機構(NIMS)

変換効率の急上昇と製造コスト低減が魅力

 現在の太陽電池の主力はシリコン太陽電池や、CISやCdTeなどの化合物半導体を用いた太陽電池。いずれも年間GW単位で大量生産されている。ペロブスカイト太陽電池は研究開発の初期段階にあり、量産や製品化には全く至っていない。

 それにもかかわらず強い関心を集めている理由は2つある。まずは発見されてからわずかな期間で、数十年の歴史がある多結晶シリコン太陽電池の変換効率を追い抜いたことだ(図2)。20種類以上の太陽電池技術の中、最も勢いがある。

図2 急速に変換効率が高まるペロブスカイト太陽電池セル オレンジ色で示した。多結晶シリコン太陽電池セル(青色)と傾向を比較した。クリックで拡大。出典:米NREL(国立再生可能エネルギー研究所)が2016年3月9日に発表した各種変換効率の記録(efficiency_chart.jpg)を本誌が編集

 もう1つは、シリコン太陽電池よりも格段に製造時のコストが下がる見込みがあること。シリコン太陽電池は高温(約1500度:単結晶シリコン、約1000度:多結晶シリコン)で半導体材料を作る。化合物半導体では真空プロセスを用いる。

 ペロブスカイト太陽電池は、高温プロセスや真空プロセスではなく、ほとんどの部分を常温常圧下の塗布プロセスで製造できる。印刷技術の適用も可能だ。これが製造コスト低減に効く。「(後述する)NiO層を500度での焼結、裏面電極は真空蒸着で形成、その他の層は塗布で150度以下で形成しました」(NIMSの韓氏)。

 NEDOの高性能・高信頼性太陽光発電の発電コスト低減技術開発プロジェクトでは、2019年度までに、モジュール製造コストとして1ワット当たり15円を実現可能な材料およびプロセスの要素技術を開発するとしている*2)。この目標実現にも役立つ。

*2) 「2019年度末のプロジェクト終了までに実際にモジュールを量産して実際のコストを算出するのではない」(NEDO)。

       1|2|3 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.