原子とロールで作る「ペロブスカイト太陽電池」太陽光(1/4 ページ)

急速に変換効率を伸ばしているペロブスカイト太陽電池。安価な材料を用いた薄膜太陽電池として期待されている。オランダSollianceは、量産に欠かせない太陽電池のモジュール化技術を開発。変換効率を維持しながら、モジュール面積を拡大した。開発ポイントは製造プロセスにあった。

» 2016年05月26日 13時00分 公開
[畑陽一郎スマートジャパン]

 オランダSolliance*1)は、2016年5月9日、変換効率が10%のペロブスカイト薄膜太陽電池モジュールの大型化に成功したと発表した(図1)。

 Sollianceによれば、ペロブスカイト太陽電池モジュール開発の究極の目的は、1枚1枚製造する枚葉方式ではなく、ロールツーロール方式やシートツーシート方式*2)などの連続大量生産方式を適用することだという。今回の成果によって、この目的に向かう最初の障壁を越えたとする。

 Sollianceは有機ELや有機薄膜太陽電池、CIGS(銅インジウムガリウムセレン)太陽電池などの電気活性層を形成する高度なロールツーロール装置を複数導入済みであり、これらの試作を進めているという。このため、ロールツーロール法を用いたペロブスカイト太陽電池を短期間で実現可能だと主張する。

*1) Sollianceはオランダ、ベルギー、ドイツから合計8つの研究機関が参加する薄膜太陽電池に関する共同研究開発の枠組み。薄膜シリコン太陽電池、CIGS太陽電池、有機薄膜太陽電池などを研究対象としている。パイロット生産ラインを備えており、企業や研究機関、大学に属する250人の研究者の活動を統合、連係することが目的だ。ペロブスカイト太陽電池モジュールの研究開発では産業界の4社とも協力している。米Nono-C、米Solartek、オーストラリアDyeSol、2016年3月に加わったパナソニックである。
*2) ロールツーロール方式では、ロール状に巻いた長尺基板を送りながら成膜やパターニングを連続して行い、ロールに巻き取っていく。シートツーシート方式では、ロール上に個別の基板を置き、連続的に成膜を進める。シートツーシート方式の方が、既存の製造ラインを利用しやすい。

図1 オランダSollianceが公開したペロブスカイト太陽電池モジュールの外観 ほぼ水平に分かれた細長いセルが見える。出典:Solliance

高効率から量産へ

 ペロブスカイト太陽電池は3年間で10ポイント以上という他に例を見ない勢いで変換効率を高めている。現在の記録は22.1%*3)。変換効率の記録だけを見れば、薄膜太陽電池として既に成功しているCIS(銅インジウムセレン)やCdTe(カドミウムテルル)と同水準に達している*4)

 太陽電池の研究成果を見る際、高い変換効率がまず目を引く。だが、量産が可能になるまでにはさまざまなハードルがある。シリコンと競合できる安価な材料を用いること、製造時のコストを抑えること、短時間に生産できること、さらに製造した太陽電池の寿命が長いことだ。

 材料コストや製造コストの観点から、結晶シリコン太陽電池と競合可能なのはCISやCdTeなどの薄膜太陽電池だ。どちらも1GW以上の生産能力に達しており、製造時の課題を解決し続けている*5)

 ペロブスカイト太陽電池には材料コストの課題が少ない。安価で大量に入手できる材料だけを用いているからだ。Sollianceの研究チームは、ペロブスカイト太陽電池の材料コストは、薄膜太陽電池の中で最も低い他、高温の製造プロセスを必要とせず、常圧下で製造でき、製造に要する時間も短いと主張する。

 だが、大量生産への道にはまだハードルが残っている。22.1%という記録を打ち立てたセルの面積は0.1cm2程度。より大きなセル、モジュールへの道筋をたどる必要がある(関連記事)。

 小面積セルで高効率を実現し、大面積化を果たしながら量産技術を確立するという流れは、各種の薄膜太陽電池の間で共通している。例えば、CIS太陽電池の研究開発から量産まで取り組むソーラーフロンティアの事例だ。1cm2に満たない小セルから、30cm角のサブモジュール、1.2m2のモジュール製品に至るまで、高効率化技術を製品に落とし込む絵を描き、実行している(関連記事)。

 今回のSollianceの発表は、ペロブスカイト太陽電池が研究室での小セル開発から、大面積モジュールの段階へと踏み出したことを意味している。

*3) 米NRELが2014年3月19日に発表した記録では、韓国化学研究所(KRICT)と韓国の蔚山科学技術大学校(UNIST)が共同で開発した22.1%を挙げている。
*4) CISの記録はソーラーフロンティアの22.3%、CdTeの記録は米First Solarの22.1%。
*5) GaAs(ガリウムヒ素)などを用いた太陽電池は、結晶シリコンよりも変換効率が高い。しかし、材料コストの削減が困難であり、生産規模が1GWに達する見込みが薄い。宇宙での利用の他、集光型太陽電池などのシステム化に生きる道がある。

       1|2|3|4 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.