電力システム改革を「貫徹」する新たな施策、2020年に向けて実施へ動き出す電力システム改革(70)(2/2 ページ)

» 2016年09月29日 11時00分 公開
[石田雅也スマートジャパン]
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原子力の電力を市場で取引する目的と思惑

 政府は2030年度に達成するエネルギーミックス(電源構成)の目標の中で、原子力の比率を20〜22%程度に設定した(図5)。この目標を達成するためには、建設中の原子力発電所を含めて全国で45基のうち35基以上を稼働させる必要がある。現状のままでは目標達成は極めてむずかしく、抜本的な対策を早期に打ち出さなくてはならない。

図5 2030年度のエネルギーミックス(電源構成)の内訳。出典:資源エネルギー庁

 その1つが「非化石価値取引市場」の創設だ。エネルギーミックスの最大の目的は、2030年のCO2(二酸化炭素)排出量を2013年比で26%削減することにある。化石燃料を使わない原子力と再生可能エネルギーを合わせて44%以上の比率に高めることがCO2排出量の大幅な削減に不可欠になっている。

 政府は「エネルギー供給構造高度化法」を2016年4月1日に改正して、電力の販売量が年間5億kWh(キロワット時)以上の小売電気事業者を対象に、2030年度の販売量の44%以上を非化石電源で供給するように規定した。新市場を創設して各事業者が非化石電源の電力を調達しやすくする(図6)。と同時に再生可能エネルギーによる電力の調達コストを引き下げて、国民が負担する賦課金を軽減することにもつながる。

図6 「非化石価値取引市場」の創設によるエネルギーミックス達成の枠組み。出典:資源エネルギー庁

 ただし再生可能エネルギーの電力の大半は、2017年度から送配電事業者(電力会社の送配電部門)が買い取る仕組みに変わる。固定価格買取制度(FIT)の対象になる電源は卸電力取引所を通じて、市場で電力を売買する方法が主流になる(図7)。この仕組みが定着すれば、小売電気事業者が再生可能エネルギーの電力を安く調達できる。新たに別の市場を作る必要性は低い。

図7 送配電事業者が買い取ったFIT電源による電力の供給形態。FIT:固定価格買取制度。出典:資源エネルギー庁

 結局のところ、非化石価値取引市場を創設する最大の狙いは、原子力発電を拡大させることにある。安全性や環境負荷が大きく異なる再生可能エネルギーと原子力を1つの市場でどう扱うのか。国民や事業者が納得する制度を作り上げるのは至難の業と言える。

 このほかの検討項目を含めて、委員会では2016年内に中間の取りまとめ案を策定する方針だ。その内容を受けて経済産業省が新しい制度の設計に入る。新制度を実施するタイムリミットは、2020年4月に実施する発送電分離である。電力会社の発電事業と小売事業が健全な競争状態に変わらない限り、発送電分離を実施しても電力システムの改革は貫徹できない(図8)。

図8 電力会社の発電・送配電・小売事業の競争状態と中立性。出典:資源エネルギー庁

第71回:「地域を越えて電力を取引しやすく、連系線の運用ルールを改正へ」

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