「太陽光」「燃料電池車」「外部給電」、ホンダがミニ水素社会を実験電気自動車(1/2 ページ)

2016年10月24日、ホンダが東京都江東区で燃料電池車を用いた実証実験を開始した。圧力70メガパスカル(MPa)の水素を、ごく小型の設備を用いて水道水から直接製造できることが特徴。太陽光発電システムとも組み合わせた。

» 2016年10月26日 13時00分 公開
[畑陽一郎スマートジャパン]

 水素をエネルギー源とする燃料電池車。この普及ペースを決める要因の1つが、水素ステーションだ。必要な設置スペースを抑えることができ、稼働までの立ち上げ期間の短い水素ステーションが必要だ。

 2016年10月24日にホンダが実証実験を始めた「70MPaスマート水素ステーション(以下、70MPa SHS)」は以上のような要求を満たす。

 同社はこれまで「35MPaスマート水素ステーション(35MPa SHS)」を手掛けてきた。今回の実証実験では床面積を35MPa SHSの7.8平方メートル(m2)から、約6m2と小型化。「高さも2300ミリメートル(mm)に抑えた」(ホンダ、図1)。

 「工場で70MPa SHSの箱形ユニットを作り上げ、土台を固めた現場に設置するだけで水素ステーションとして利用が可能だ。必要なインフラは水道管と、200ボルトの交流電源だけである」(同社)。

図1 実証実験施設のイメージ 江東区青海の都有地(さら地)を借りて設備を導入した。敷地の広さは約38×33m。中央上が70MPa SHS(左)と燃料電池車。2列の太陽電池アレイが見える。左下の装置群は倉庫や(防災用の)散水ユニット、非常用電源

小型化以外のメリットも

 「70MPa SHSを小型化できたのは、内部で製造*1)・蓄積する水素の圧力を、従来の35メガパスカル(MPa)から70MPaに高めたためだ。ステーション内に18キログラム(kg)までの水素を蓄えることができ、そのために必要なタンクは3本(1本87リットル)と少ない。35MPa SHSと比較して、タンクを並べた列が1列減った」(同社)。35MPa SHSではタンクが8本(1本92リットル)必要だった。

 水素の圧力を高めたことで、さらに3つの利点が生まれた。第一に1日当たりに製造できる水素の量が従来の1.5kgから2.5kgに増えた。「製造圧が高くなると、製造量が増える」(同社)。

 第二に燃料電池車への充填時間が短くなったこと。「35MPa SHSでは2.7kgの水素を充填するために8分かかっていた。今回の70MPa SHSでは5kgの水素を10分で充填できる」*2)

 第三に燃料電池車の走行距離が伸びる。「35MPa SHSを利用して、当社の燃料電池車『CLARITY FUEL CELL(クラリティ フューエル セル)』に充填した場合、充填圧が十分に高くないため、充填できる水素の量が車両本来の満充填量の約6割に留まっていた。70MPa SHSを用いると満充填でき、750キロメートル(km)*3)走行可能というCLARITY FUEL CELLの能力を引き出すことができる」(同社)。

*1) 同社の技術の特徴は、常圧の水を電気分解し、高圧の水素を得ること(差圧式高圧水電解システム)。コンプレッサが不要であるため、タンクに70MPaの水素を蓄えるためにエネルギー(電力)を使わない。
*2) 小型化を実現するために充填速度を幾分抑えた設計を採用した(充填圧70MPaの一般的な水素ステーションでは3分で満充填が可能)。燃料電池車のタンクに水素を充填すると、断熱圧縮のために水素の温度が上がる。これを防ぐために一般の水素ステーションでは水素を冷却してから、充填している。ホンダの設備も冷却器を内蔵しているものの、小型化のために冷却温度が一般のものよりも高くなり、充填時間を長くすることで対応した形だ。
*3) SAE規格(J2601)の標準条件(外気温20℃、高圧水素タンク内の圧力10MPaからの充填)のもと、JC08モード走行パターンによる同社測定値。

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