人工光合成の効率を100倍以上に、新しい薄膜形成手法を開発自然エネルギー(1/2 ページ)

太陽光と水とCO2を使い、酸素や水素、有機物などの貯蔵可能なエネルギーを人工的に生成できる技術として注目されている人工光合成。富士通研究所はこの人工光合成において、酸素の発生効率を100倍以上向上させる新しい薄膜形成プロセス技術を開発した。人工光合成の実用化課題である効率の改善に寄与する技術として期待がかかる。

» 2016年11月09日 07時00分 公開
[陰山遼将スマートジャパン]

 富士通研究所は2016年11月7日、人工光合成における太陽光と水との相互作用で電子と酸素を発生する明反応電極で、酸素の発生効率を100倍以上向上させる新しい薄膜形成プロセス技術を開発したと発表した。同社ではこの成果を地球温暖化など環境・エネルギー問題を解決する基盤技術の1つと位置付けており、将来に向けた持続可能な社会の実現への貢献が期待されるとしている。

 地球温暖化防止に向けたCO2排出量の削減が大きな課題となる中で、化石燃料に頼らない、貯蔵可能かつクリーンなエネルギーを創出する技術の研究開発が進んでいる。その中で注目されている技術の1つが人工光合成だ。人工光合成は太陽光と水とCO2を用い、酸素と水素、有機物などの貯蔵可能なエネルギーを人工的に生成できる技術として期待されている。

 近年、活発な研究が進んでいる人工光合成だが、課題は効率にある。水素や有機物など貯蔵可能なエネルギーを人工的に生成するためには、太陽光のエネルギーを用い、光励起(ひかりれいき)材料から反応電子を効率よく取りだし、加えて電極において効率的に水やCO2と化学反応させる必要がある。

 これまでは太陽光と水が反応する明反応の電極に、半導体材料や比較的大きい粒子状の光励起材料を密度の低い構造で固めた材料が用いられていた。しかし太陽光(可視光波長)の中で利用できる波長の範囲が狭いため、化学反応に十分な電流量を取り出すことが難しいという課題があった。

 今回、富士通研究所は効率を高めるため、光励起材料の形成プロセス改良に取り組んだ。具体的にはフレキシブル実装シート上にキャパシタなどの受動素子を形成するための電子セラミックスの成膜法(ナノパーティクルデポジション、NPD)を改良し、光励起材料の原料粉末をノズルで吹き付ける際、原料粉末を薄い板状に破砕しながら基板上に積層させる薄膜形成プロセス技術を開発した。

 光励起材料の原料粉末を、成膜後に原子レベルのひずみを持つ結晶構造となるような組成にすることで、同技術適用前と比べて太陽光のエネルギーを吸収できる最大波長を490ナノメートルから630ナノメートルへに広げ、利用可能な光の量を2倍以上に向上させた(図1)。

図1 開発材料の太陽光の反射率 出典:富士通研究所
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