水素を大量に作れる新材料、再エネ水素製造の低コスト化に貢献蓄電・発電機器

産業技術総合研究所の研究グループは水の電気分解で、従来より水素を大量に製造できる酸化物ナノ複合化陽極材料を開発したと発表した。水素ステーション用の水素製造装置の小型化や、再生可能エネルギーを用いた水素製造の低コスト化につながる成果だという。

» 2016年11月14日 07時00分 公開
[陰山遼将スマートジャパン]

 産業技術総合研究所 無機機能材料研究部門 機能集積化技術グループの島田寛之 主任研究員と山口十志明 主任研究員は2016年11月9日、固体酸化物形電解セル(SOEC)に用いる酸化物ナノ複合化陽極材料を開発したと発表した。高温電解電流密度を飛躍的に向上させ水素を大量に合成できる材料で、水素ステーション用などの水素製造装置に適用でき、電解装置を従来よりもコンパクトにできるなどのメリットがあるという。

 水の電気分解による水素製造技術としては固体高分子形やアルカリ形があるが、作動温度が低く電解電圧が高いため、エネルギー変換効率に限界がある。一方、SOECを用いた高温での水蒸気電解は、電解電圧が低くシステム内で無駄なく熱を利用でき、水素製造に必要なエネルギーを従来の水電解技術よりも20〜30%削減できる。さらに白金などの貴金属電極が不要といったメリットもある。一方でセル面積当たりの水素製造量が少なく、電解電流密度が低いためセル面積当たりのエネルギーキャリア合成量が十分ではないという課題があった。

 こうしたSOECの課題の原因の1つとなっているのが、陽極での反応時に生じる大きな抵抗である。従来の陽極材料では、電解電流密度に限界が生じていた。そこで今回研究グループは、高い電流密度を達成できる新しい陽極材料の開発に取り組んだ。

 SOECの陽極は、電気伝導率が高く電極抵抗が小さいほど、高い電流密度が得られる。現在、SOEC陽極材料として一般的に使用されている電子伝導性のペロブスカイト型構造材料(LSCF)では、イオン伝導性材料のガドリウム添加セリア(GDC)と複合化して、電極内に電子とイオンそれぞれの伝導経路を形成すると同時に、反応する点を増やすことにより電極抵抗を低減させている。

 今回研究グループは電解電流密度を飛躍的に増加させる高性能陽極として、高電子伝導性のペロブスカイト型構造材料であるサマリウムストロンチウムコバルタイト(SSC)と、サマリウム添加セリア(SDC)の一次粒子をナノレベルで均質化させたナノ複合構造の二次粒子を設計し、噴霧熱分解法による製造プロセスで合成した。この材料を用いたSOECで高温水蒸気電解を行ったところ、電解電流密度は2.3A/cm2(750度、電解電圧1.3V)だった。

 これは、既存の水電解技術であるアルカリ水電解や、高分子形電解、これまでのSOEC高温水蒸気電解の2〜10倍に相当する値だという。実用化の目安であるSOECの容積1dm3(想定電極面積1200cm2)当たりの水素製造量1Nm3/hを達成するには2A/cm2の電解電流密度が必要とされているが、今回開発した陽極を用いたSOECの電解電流密度はこれを上回っており、水素ステーション用などの水素製造装置に適用でき、電解装置を従来よりもコンパクトにできるとする(図1)。

図1 高温水蒸気電解の結果 出典:産総研

 さらに開発した陽極材料を用いたSOECでの電解水素の合成速度は、高分子形電解やアルカリ水電解と比べ、セル面積当たりで2倍以上の水素を合成できた。電解熱中立点で電解することで、外部から供給する電力を従来より20〜30%削減できるというSOECによる水電解の利点に加え、今回の陽極材料により大量の水素製造が可能になることで、再生可能エネルギーを活用した水素製造時のコスト削減に貢献できるとしている。今後研究グループは、開発したナノ複合化陽極を、実用サイズ・形状のSOECに適用して実証試験を行うなど実用化に向けた研究開発を進めていく方針だ。

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