電力自由化で大躍進の東急パワーサプライ、村井社長に戦略を聞く新電力トップに聞く(1/3 ページ)

電力自由化によってさまざまな異業種が電力市場に参入したが、その中で存在感を示している1社が東急パワーサプライだ。東急電鉄グループの持つ沿線周辺の顧客基盤を強みに、非エネルギー系の新規参入事業者の中では大きなシェアを獲得している。同社の代表取締役社長を務める村井健二氏に1年の振り返りと、今後の事業展望について聞いた。

» 2017年02月14日 14時00分 公開
[陰山遼将スマートジャパン]

 2017年4月で、電力の小売全面自由化がスタートして1年を迎える。自由化に伴い、さまざまな異業種が電力市場に参入したが、その中で存在感を示している1社が東急パワーサプライだ。東急電鉄グループの持つ沿線周辺の顧客基盤やサービス連携を強みに、同社の提供する「東急でんき」の加入者数は2016年12月末時点で8万件を突破。10年間で50万件の獲得目標に向けて、順調なスタートを切った。現在も順調に顧客数を伸ばしており、非エネルギー系の新規参入事業者の中では大きなシェアを獲得している。同社の代表取締役社長を務める村井健二氏にこれまでの振り返りと、今後の事業展望について聞いた。

8万件の獲得は「想定通り」

スマートジャパン(以下、SJ) 間もなく電力自由化から1年を迎えますが、市場の状況や自社の実績についてどう見ていますか。

村井健二氏(以下、村井氏) 電力自由化が始まる前は、われわれのような非エネルギー系の新規参入事業者が大きなシェアを獲得するという見方も強かった。しかし始まってみると、従来から電力やガス事業を手がけていたエネルギー系の企業が多くの顧客を獲得しているというのが事実だ。その中で、非エネルギー系である東急パワーサプライが8万件を獲得したというのは、電力自由化の中でも特徴的な出来事だったのではないかと認識している。

東急パワーサプライ 代表取締役社長の村井健二氏。1988年早稲田大学 理工学部卒業後、東京急行電鉄入社。イッツ・コミュニケーションズ取締役常務執行役員、東京急行電鉄生活サービス事業部電力事業推進部統括部長などを経て、2015年10月から現職

 一方で、こうして順調に顧客数を伸ばせたことは、ある意味で想定通りの面もあった。東急グループでは、沿線沿いを中心にさまざまな生活サービスを提供している。既にこうした東急グループと顧客とのコミュニケーションがある中で、新たなサービスの1つとして「東急が電気の提供も始める」というのは自然なかたちで受け入れられるのではないかと考えていたからだ。

 東急でんきは、あくまでも生活サービスの1つであり、電気という視点だけで提供しているわけではない。現在も加入のペースは落ちておらず、むしろ増加傾向にある。年度内に10万件も見えてきてた。われわれがきちんとしたサービスを用意すれば、しっかりと顧客の反応がついてくるという手応を感じている。

SJ 既に東急沿線に顧客基盤が有るというのは大きな強みだと思います。電車や駅、不動産、店舗など、顧客との接点はさまざまな点が考えられると思うのですが、顧客獲得に向けてはどういった施策に注力してきたのでしょうか。

 イメージキャラクターの「てるまる」 出典:東急パワーサプライ

村井氏 東急でんきに切り替えたユーザーの経路は、さまざまだ。東急でんきは単に電気料金だけでなく、カード、定期券、ケーブルテレビなど、東急グループ各社のサービスを組み合わせるとよりお得になるというメリットを打ち出している。それに応じて、カード会員へのアプローチ、グループ会社と連動した営業活動など、さまざまな顧客との接点を作れるよう、多種多様な施策を進めている。

 東急でんきは東急グループの店舗や交通料金に使えるポイントが貯まるなど、ユーザーの実生活に近いメリットの還元を特徴の1つとしている。こうした特徴は主婦層などにも伝わりやすく、東急でんきが生活に身近なサービスの1つとして認知してもらえる一因になっているのではないかと思う。また、東急でんきのイメージキャラクターである「てるまる」への反応も非常に大きい。

電気は「説明商材」である

村井氏 さまざまな施策を行ってきた中で分かってきたのが、電気は説明商材であるということだ。電力自由化が始まる前は、「多くのユーザーは電力会社をWeb上からすぐに切り替えるようになる」といった意見も強かった。しかし、実際に販売を進めて分かったのは「顧客は説明を求めている」ということ。「電力会社を切り替えても、これまでと同じように電気を利用できるんだ」といった説明を、一度聞いてから切り替えたいという顧客はとても多い。一言でもいいから直接説明を行い、背中を押してあげるような感覚だ。

 これは、電気というのは一回限りの買い物ではなく、一定の期間にわたる契約であるということも影響しているだろう。そのため、やはり東急でんきについて、直接説明する機会や接点を設けることが重要だと考え、駅や地域のお祭り、スポーツイベントなど、さまざまな場所で直接顧客と接点を持てる場を設けることに注力している。

 電力自由化が始まる前には、電力会社を選ぶ際に価格を第一にするユーザーが多く存在し、だからこそ価格比較サイトの重要性が非常に高いという意見もあった。しかし、現状を見てみると、必ずしも価格だけがユーザーの行動を決めているとはいえないのではないかと感じる。毎月の電気料金というのは大きく変動するもので、ある月はA社のプランが一番安いが、異なる月ではB社のプランの方が安いという場合も多々ある。つまり、必ずしも常にこのプランが安いとは言い切れないことの方が多い。そのため、価格ランキングの順位を見てWeb上から切り替えを行うユーザーというのは、当初想定されていたよりは少ないのではないかと感じる。

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