「水素先進都市」を臨海工業地帯に、風力発電と副生水素を生かす自然エネルギー(1/2 ページ)

太平洋岸に数多くの風力発電所が集まる茨城県・神栖市は「安全で持続可能なエコ・シティ」を目指して水素エネルギーの導入に力を入れる。風力発電の電力で作る水素に加えて、臨海工業地帯の工場で発生する副生水素を活用する方針だ。国の戦略に合わせて「水素先進都市かみす」を目指す。

» 2017年03月22日 09時00分 公開
[石田雅也スマートジャパン]
図1 茨城県の全体と神栖市の位置(赤い部分)。出典:神栖市企画部

 神栖市(かみすし)は茨城県の東南端に位置して、市の東側は太平洋に面している(図1)。沿岸部の工業地帯には海から吹きつける強い風を利用して風力発電所が数多く運転中だ。工業地帯の中心にある鹿島港の機能と都心から100キロメートルの距離にある立地を生かして製造業が集まり、人口も増え続けている。ただし市内には鉄道がなく、輸送手段は自動車が中心だ。

 工場と自動車から大量に排出するCO2(二酸化炭素)の削減と新たな産業の振興を目指して、「神栖市水素エネルギー利活用戦略」を3月17日に公表した。水素で走る燃料電池自動車、水素から電力と熱を作り出す燃料電池を普及させて、「安全で持続可能なエコ・シティ」を目指す。それと合わせて工業地帯で発生する副生水素と風力などの再生可能エネルギーを活用した水素の製造に重点的に取り組んでいく方針だ(図2)。

図2 「神栖市水素エネルギー利活用戦略」の構成(画像をクリックすると拡大)。出典:神栖市企画部

 水素エネルギーの導入を促進するために、地域の特性を生かせる2種類のモデルを設定した。風力発電による大量の電力を使って水素を製造する「海浜エリアモデル」と、工業地帯の副生水素を燃料電池自動車や燃料電池フォークリフトで地産地消する「コンビナートモデル」である。

 神栖市の沿岸部では13カ所の風力発電所が運転中で、合わせて43基の風車が稼働している(図3)。発電能力を合計すると7万6100キロワットに達する。風力発電の設備利用率(発電能力に対する実際の発電量)を標準の25%で計算すると、年間に1億6700万kWh(キロワット時)の電力を供給できる。一般家庭の使用量(年間3600kWh)に換算して4万6000世帯分になり、神栖市の総世帯数(4万世帯)を上回る。

図3 神栖市の風力発電所(上、2016年4月時点)、洋上風力発電所(下)。出典:神栖市企画部

 大量に生み出される風力発電の電力を利用すれば、水素の製造拠点を市内に展開することは可能だ。水素エネルギー利活用の「海浜エリアモデル」では、風力発電の電力で水を電気分解してCO2フリーの水素を作り、近隣の公共施設などに設置した燃料電池で利用することを想定している(図4)。

図4 風力発電の電力で水素を製造する「海浜エリアモデル」。出典:神栖市企画部

 手始めに沿岸部の市有地に中規模の風力発電設備と水電気分解装置を導入して実証実験に取り組む。風力発電の出力変動に対応しながら水素を安定的に製造・貯蔵して燃料電池で利用できることを検証する。試算では市内の風力発電で作り出す電力の1%を水素に転換して燃料電池で利用するだけで、年間に165トンのCO2を削減できる見込みだ。

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