従来比2倍のエネルギー密度へ、リチウム硫黄電池の正極を新開発蓄電・発電機器(1/2 ページ)

大阪府立大学の辰巳砂昌弘氏らはリチウム硫黄二次電池の実現に向けて、硫化リチウムベースの固溶体と硫化物固体電解質を組み合わせた正極を開発し、容量と寿命の飛躍的な向上に成功した。

» 2017年05月26日 07時00分 公開
[庄司智昭スマートジャパン]

「最も高い容量と優れた寿命を示した」

 次世代型蓄電池として期待されるリチウム硫黄二次電池。現行のリチウムイオン電池の蓄電容量が理論限界に達している中で、その5倍以上の高い理論エネルギー密度を有することから、リチウム硫黄二次電池の研究開発が世界中で激化している。しかし克服しなければいけない課題が多く、実用化には至っていないのが現状だ。

 大阪府立大学 大学院 工学研究科の辰巳砂昌弘氏らは2017年5月、リチウム硫黄二次電池用の正極を開発し、容量と寿命を飛躍的に向上させることに成功したと発表した。

 克服すべき課題の1つとして挙げられるのが、電極反応時に中間反応生成物である多硫化リチウムが有機電解液に溶出するため、電池容量が劣化することである(図1左)。また正極の硫黄や硫化リチウム(Li2S)自身が絶縁体のため、これらが有する理論容量を実質的に利用することが困難であり、高容量化が必要とされていたという。

図1:従来(左)と今回発表したリチウム硫黄電池(右)の比較 出典:科学技術振興機構(JST)

 辰巳砂氏らは多硫化リチウムの溶出を抜本的に防ぐことに加えて、実質的に利用できる容量を増大させるため、電解質として「硫化物固体電解質」とLi2Sベースの「固溶体」を組み合わせた正極を開発した(図1右)。「これまで報告されているLi2S正極の中で、最も高い容量と優れた寿命を示した」(辰巳砂氏ら)とコメントする。

 JSTのリリースによると、固体電解質とはリチウムイオンが高速に伝導する材料のことを指し、大まかに分類すると酸化物系と硫化物系がある。硫化物系固体電解質は酸化物系固体電解質と比較して、イオン伝導度が高く、室温加圧のみで粒界抵抗を低減できるなど、全固体電池へ応用する上で多くのメリットを持っているという。

 固溶体は2種類の固体が均一に混じり合って生成する固体だ。導入されたイオンが、結晶にある別のイオンと直接位置を交換することで形成される。今回は、ハロゲン化物イオンがLi2S結晶中の硫化物イオンと一部置換することで得られている。

 同研究で重要なのは、従来と比較して高容量を示すLi2S固溶体とする。これまで容量を増大させるためにカーボンとの複合化、Li2Sの微粒子化などが検討されてきたが、理論容量に対して最大70%程度しか取り出せなかった。そこで新たなアプローチとして、小さい容量の原因がLi2Sの低いイオン伝導性と考え、Li2Sとハロゲン化リチウム(LiCl、LiBr、LiI)から構成される固溶体を作製し、Li2S自身の高イオン伝導化を検討した。

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