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» 2017年08月18日 08時00分 UPDATE

蓄電・発電機器:イリジウム触媒1つで、水素の貯蔵・放出を可能に

水素の貯蔵・輸送コストを低減するとして期待されている「有機ハイドライド法」。京都大学はイリジウム触媒を利用した新しい手法を開発した。1つの触媒で水素の貯蔵と放出を行えるのが特徴だ。

[長町基,スマートジャパン]

 京都大学 人間・環境学研究科の藤田健一教授らの研究グループは2017年7月、イリジウム触媒を用いた水素の有機ハイドライド貯蔵手法を開発したと発表した。「ジメチルピラジン」という窒素を含んだ複素環式化合物を水素と反応させ、「ジメチルピペラジン」という物質として水素を蓄える。同一のイリジウム触媒を用い、脱水素化反応によって水素を取り出すことも可能だ。この2つの反応を、比較的穏やかな条件で達成することにも成功したとしている。

 低炭素社会実現の観点から、理想的なエネルギー源として注目されている水素。普及に向けた課題の1つが、低コストかつ安全な貯蔵・輸送手法の確立だ。その手法の1つとして、水素を有機分子内に結合させて蓄える「有機ハイドライド法」が注目されている。気体の水素を有機化合物に吸収した後に、特殊な触媒を使って水素を取り出す技術で、常温・常圧の状態で水素を貯蔵・輸送できるため、大量の水素を低コストかつ長距離でも運べる利点がある。

 例えば、炭素環式化合物のメチルシクロヘキサンとトルエン、デカリンとナフタレンの間の触媒的な脱水素化反応と再水素化反応を利用し、水素を貯蔵・放出させるシステムが研究されている。しかし、これらの手法では水素を放出するための脱水素化反応に200℃以上を必要とする。

 今回研究グループが利用した窒素を含む複素環式化合物は、炭素環式化合物と比較して脱水素化反応に必要な温度が低くて済むという利点があるため、有機ハイドライドとして有望だという。しかし、これまで研究されてきた手法では、水素を貯蔵するときと取り出すときに異なる触媒を用いなければならず、加えて水素貯蔵の際に50気圧程度以上の高圧水素と、大量の溶媒を用いる必要があり、実用化の壁となっていた。

 同研究グループは、入手が容易で取り扱いの面で大きな問題のない、有機ハイドライド分子の候補になり得る化合物を探索し、ジメチルピペラジンという化合物に行き当たった。この化合物はこれまでに研究グループが開発してきたイリジウム脱水素化触媒を用いることで、3分子の水素を放出しながらジメチルピラジンという物質に変換されることが分かったという。また、同じ触媒を利用して、これまでの手法より低い15気圧という条件下で水素を貯蔵する水素化反応が行えることも分かった。

開発した水素貯蔵手法のイメージ(クリックで拡大) 出典:京都大学

 研究グループはこの方法で水素貯蔵と水素放出の反応を連続的に繰り返し行ったところ、少なくとも4回目までの繰り返し実験では、触媒の性能が低下することなく、水素の貯蔵と放出がほぼ100%と高効率に行えたという。なお、この際に少量の反応溶媒(p-キシレンと水)を添加しているが、その量は従来手法と比べて大幅に少ないため、水素貯蔵における効率性を高めることにつながるとする。さらに、水素化の収率が78%と若⼲低下するものの、溶媒をまったく用いない条件でも可逆的な水素放出と水素貯蔵を達成できることも分かり、今後のさらなる発展が期待できるとしている。

 今回開発した水素貯蔵システムでは、有機ハイドライド分子と溶媒の合計100g当たり、3.8gの水素を貯蔵でき、溶媒を用いない場合は4.1gを貯蔵できる。研究グループは、これらの数値は、これまでに報告されていた窒素を含む有機化合物を用いた水素貯蔵システムに比べれば格段に低い数値だが、実用的な水素貯蔵システムへと発展させるためには、100g当たり5gを超えるような貯蔵量を持つ新しい有機ハイドライド分子を探索するとともに、より高活性な触媒を開発する必要があるとした。

 ただ、今回のシステムの特徴である、水素化反応と脱水素化反応を同一の触媒で行えるという点は、さまざまな応用が期待できるとしている。例えば、有機ハイドライド分子と触媒を密閉し、水素燃料電池と接続してパッケージ化することにより、危険性のある水素ガスを直接扱うことなく電気エネルギーを与えるようなモジュールを設計できる可能性があるとした。

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