デジタル化が転機に、未来の配電網が生むイノベーションとは?エネルギー×イノベーションのシナリオ(2)(2/2 ページ)

» 2018年05月29日 07時00分 公開
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配電設備のデジタル化がもたらす変化とは?

 このような配電設備のデジタル化の後、次は送配電事業自体に変化が及ぶものと考えられる。その変化とは、電気の流れに従った送電を主、配電を従とした運用関係が逆転するのではないかということである。すなわち、配電エリアにある分散型の電源を上流と捉えて配電網に流し、配電エリア内でエネルギーの需給バランスを賢くコントロールできるのであれば、送電から流れる電力は究極的には非常用電源として扱うこととなるため、配電側でのコントロールが主となり、送電を従とするという考え方に変わる可能性があるということである。

 結果として、常時必要ではなくなる高圧送電領域は、非競争領域として安定供給のために守るべき事業としての性格が強くなっていくものと考えられる。一方で、配電領域は、その地域に即したエネルギーインフラになるような計画、コスト競争力のある運用・保守にすべく、運営権を競争入札とすることなどで新規参入を許し、各地域でアイデアを競争させて発展・進化を促すというパターンも考えられる。これは、全国一律の規制で制限されてきた旧一般電気事業者の配電部門にとっても、新たな事業機会の創出となる。

 例えば、余剰電力のP2P(ピア・ツー・ピア)取引が増えるような地域であれば、託送距離や託送回数に応じた料金設定を認める、あるいは定額料金にするなど、総括原価方式で全国一律に審査され決められる託送料金(kWh当たりの料金制)を、地域ごとに事業者が自由に設定することも可能となる。このように、配電事業を自由化することで、エネルギーのP2P取引に付随するさまざまな課題(電圧管理、売買価格の管理、託送費、メータリングなど)は事業者のアイデアで解決することができる。

 その他にも、配電網の増強で充電インフラを充実させてEVを大量導入しようとするクリーンな地域の実現や、託送費は高くなるが停電ゼロの地域の実現、景観に合わせて電柱や電線をデザインするなど、その地域の事業者のアイデアと遂行責任でさまざまな配電イノベーションを起こすことが可能となる。

 また、このような競争で、配電網をどう投資・維持管理していくかだけでなく、配電網・配電からのデータに対する「足し算」または「掛け算」により、新たな付加価値を創出するビジネスが生まれることが期待できる。具体的には、配電網や需要家機器のデジタル情報を他の産業と掛け合わせて、次世代の広告事業や宅配事業の創出、新しいスタイルのショッピングなどの「既存産業のアップグレード型ビジネス」がある。さらには、配電網に接続する資産・エリアの稼働や非稼働をスマートメーターなどのデータから動的に把握することで、モノや場所などの遊休時間を有効利用させる「シェアリングビジネス」、これまでは実現できなかったような配電網(電柱など)をアクセスポイントとする街を舞台としたイベントやゲーム大会の企画や演出などの「地域活性化型のビジネス」が起こり得るだろう。

 こういった流れは、第1回の原稿で挙げた、郊外・地方都市や農村・離島の都市課題の解決にも有益に作用することが想定できる。そのため、配電領域をベースとしたイノベーションが各地域の生活を魅力的なものとし、結果として大都市である東京一極集中の流れを抑え、地域創生を実現する重要な役割を果たしていくことになると考えられるのだ。

配電領域の発展シナリオ(仮説)
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