再エネ水素の利用を広げる、低圧力でアンモニア合成できる新触媒蓄電・発電機器

産総研はこれまでより低い圧力範囲でアンモニアを合成できる新触媒を開発した。再生可能エネルギーで製造する水素の活用の幅を広げることが期待される。

» 2018年06月01日 11時00分 公開
[長町基スマートジャパン]

 産業技術総合研究所(産総研)は10MPa(メガパスカル、約100気圧)以下の圧力範囲で高い活性を維持できるアンモニア合成触媒を開発したと発表した。圧力を上げると性能が低下するルテニウム触媒特有の問題を克服したもので、水素のエネルギーキャリアとして期待されているアンモニアを合成しやすくなるという。

 さらに日揮と共同で同触媒を用いて開発したプロセスにより、供給量が変動する再生可能エネルギーで製造した水素からのアンモニア製造が可能となり、試験装置を福島再生可能エネルギー研究所に建設した試験装置で本格的に実証試験を開始した。

アンモニア合成の実証試験装置の外観 出典:産総研

 アンモニアは水素貯蔵物質として有用で大量に輸送でき、さらにアンモニア自身が燃焼時に二酸化炭素(CO2)を排出しない燃料としても用いられることから、エネルギーキャリアとして期待されている。既に肥料原料などとしての流通経路が確立されているため、実用に近い水素のエネルギーキャリアとしての期待もある。

 現在、アンモニアの合成は、天然ガス、水蒸気と空気の反応から得られる水素と窒素を高温・高圧の触媒反応でアンモニアに転換する「ハーバー・ボッシュ法」によって行われている。この方法では天然ガスを用いて水素を製造するために大量のCO2を排出する。そこで、水素の製造過程におけるCO2排出量の削減方法として、太陽光や風力などの再生可能エネルギーで水を電気分解して水素を製造する方法の開発が期待されていた。

 しかし、この方法で製造された水素は低温・低圧であるとともに、一般の化学プロセスではみられない、再生可能エネルギーの出力変動とともに水素供給量が時間によって変動するという問題を抱えている。高温・高圧・水素供給量一定で運転するハーバー・ボッシュ法とは運転条件が大幅に異なる。そのため、低温・低圧かつ供給量が変動する再エネ水素を効率的に利用できるアンモニア合成プロセスが求められていた。

 今回、産総研が開発した新規触媒は、触媒成分であるルテニウムをナノ粒子として担体に分散させたものであり、一般的に知られているルテニウム触媒の性質である水素被毒(水素がルテニウム表面を覆って反応が進みにくくなる現象)によって、高圧では性能が低下してしまう問題を克服した。これによって、従来のアンモニア合成に必要な圧力である20〜30MPaよりも低い10MPa以下の範囲で、高い活性を維持できることを見出した。

 また、変動する再エネ水素供給に対応するためには、一般の最適な条件で一定して運転している化学プラントにはない運転である、原料の濃度や流速が変化することに応じて運転を制御する必要がある。日揮と共同開発した新触媒を用いる合成プロセスでは、運転条件が変化した場合にも安定してアンモニアが製造できるという。これまでよりも低い圧力、温度において実証スケールでの液体アンモニア合成が可能であることを検証したとしている。

 今後は、再エネ水素供給量の変動を想定した条件での実証試験装置運転で、アンモニアの生産能力日量20kg(キログラム)の達成を目指すとともに、再生可能エネルギーによる水の電気分解で製造した水素を原料とするアンモニアの合成試験を実施する予定だ。

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