自家消費型の太陽光を推進、 “エネルギー地産地消”を目指す神奈川県の取り組み自然エネルギー

2030年度までに県内の電力消費量の45%を太陽光などの分散電源で賄う目標を掲げる神奈川県。特に近年注力しているのが自家消費型の太陽光発電の推進だ。その取り組みについて、産業労働局産業部エネルギー課 副課長の柳田聡子氏にお話を伺った。

» 2018年11月19日 07時00分 公開

 神奈川県が太陽光発電の普及に注力しはじめたきっかけは、2011年の東日本大震災による原発事故で計画停電が実施されるなか、当時、選挙期間中であった黒岩知事が、閑散とする繁華街を目の当たりにし、「このままでは神奈川県がつぶれてしまう」という危機感を抱いたことが発端であった。

 それ以前から再生可能エネルギーの普及に注力してきた神奈川県だが、震災以降、分散電源社会の実現に向けた取り組みをさらに加速させている。今回、こうした神奈川県の取り組みについて、産業労働局産業部エネルギー課 副課長の柳田聡子氏にお話を伺った。

2014年に策定した「かながわスマートエネルギー計画」

神奈川県 産業労働局産業部 エネルギー課 副課長 柳田聡子氏

 太陽光発電などの再生可能エネルギーの普及に向けて、神奈川県は2014年4月に、2030年度までの目標や基本政策を定めた「かながわスマートエネルギー計画」を公表した。「エネルギーは地産池消の時代へ」というスローガンを掲げるこの計画には、5つの基本政策があり、現在それに基づいて補助事業などを推進している。2030年度までに県内の電力消費量の45%を消費地の近くで発電する太陽光発電などの分散型電源で賄うことが目標だ。

1.再生可能エネルギー等の導入加速化

固定価格買取制度(FIT)の買取価格が下がる中、固定価格買取制度を利用しない自家消費型の太陽光発電等を導入する経費の一部を補助する「自家消費型太陽光発電等導入費補助」。

2.安定した分散型エネルギー源の導入拡大

県内の住宅や事業所に新たに太陽光発電設備と併せて蓄電池システムを導入する経費の一部を補助する「蓄電池導入費補助」を始め、「分散型エネルギーシステム導入費補助」、「燃料電池自動車導入費補助」、「水素ステーション整備費補助」、「ワークプレイスチャージング導入事業費補助」。

3.多彩な技術を活用した省エネ・節電の取組促進

省エネと創エネによる年間の一次エネルギー消費量を正味でゼロにする、ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス(ZEH)の導入費用の一部を補助する「ZEH導入費補助」やネット・ゼロ・エネルギー・ビル(ZEB)の導入費用の一部を補助する「ZEB導入費補助」。既存住宅の省エネを促進するために、省エネ効果が見込まれる窓等の改修工事に対して経費の一部を補助する「既存住宅省エネ改修費補助」。

4.エネルギーを地産池消するスマートコミュニティの形成

小売電気事業者が、県内の事業所等に設置された太陽光発電設備などから電気を調達して、県内の住宅や事業所等に供給するモデル事業を公募し、実施に要する経費の一部を補助する「地域電力供給システム整備事業費補助」。

5.エネルギー関連産業の育成と振興

エネルギー産業への参入促進を図るため、中小企業が行うホームエネルギーマネジメントシステム(HEMS)や水素・燃料電池関連の技術開発・製品開発を支援する「スマートエネルギー関連製品等開発促進事業」。

自家消費型の太陽光発電に注力

 神奈川県では基本政策の1つ目にあるように、特に自家消費型の太陽光発電の普及に注力してる。住宅・施設分野においては、「ZEH導入費補助」及び「ZEB導入費補助」を用意し、自立型のエネルギーシステムの構築を後押ししている。ただ、住宅の完全なZEH化を目指す上では、高断熱による省エネが必須になるが、既存住宅は実現が難しい。そこで「2018年度は新たに既存住宅でも手軽に省エネが実感できる窓改修工事などの一部に補助金を用意した。お手軽感から好評をいただいている」(柳田氏)という。

 また、住宅太陽光発電の“卒FIT”に向け注目が集まっている蓄電池についても、導入促進に向けた補助を用意。こちらは、非常にニーズが高く、多くの反響があるという。「蓄電池の導入費補助は、2018年度は4回に分けて補助金の公募を行ったが、予定件数を大きく上回る申し込みが来ている。太陽光発電とともに改めて蓄電池へのニーズの高さを知った。ただ、まだまだ蓄電池の導入費用は高い水準にあると見ている。そこで、補助金を用意することで、設置の促進につながったことは非常に良かったと感じている。まだ議会などで決定していないため、2019年度の補助金については明言できないが、今年度に利用率が高いものは、次年度の予算に盛り込みたい」(柳田氏)

 県が所有する施設で利用するエネルギーについても、“地産地消”を目指す取り組みを行っている。例えば、ロボット開発を行う企業や研究機関の支援を目的に、県立跡地を実証環境を整備した「さがみロボット産業特区プレ実証フィールド」などで使用する電力について、これまで原則として入札方式で決めていた電力の購入先を、今回始めてプロポーザル方式で公募。プロポーザルの評価基準には、電力の地産地消の取組みに関する考え方、将来的な目標、再生可能エネルギーによる地産電源の割合、地域貢献などを組み入れた。

 さらに農業振興にもつながる新しい太陽光発電のスタイルとして注目されている、ソーラーシェアリング(営農型太陽光発電)の普及にも注力する方針だ。「ソーラーシェアリングの理解を深めてもらうためのセミナーを開催する他、ソーラーシェアリングの導入に当たり、民間事業者が農家などをワンストップで支援するサービスのプランを『かながわソーラーシェアリングバンク』に登録する取り組みなどを進め、普及を後押ししたい」(柳田氏)

太陽光発電と営農の両立を目指す神奈川県

 柳田氏は「2018年は特に台風などの自然災害が多く、先日の台風24号では、神奈川県は関東圏で最も多い約18万戸の方々が停電を経験した。太陽の光さえあればエネルギーを生み出す、太陽光発電の重要性と必要性を改めて認識した県民の方も多かったのではないか」と話す。そこで今後については、「引き続き2019年度も自家消費型の太陽光発電の普及に力を入れていきたい。のぼりやチラシを作って、さまざまな所での啓発活動を行うとともに、的確な補助金の展開を併せて行っていきたい」とのこと。

神奈川県庁前には、「災害時も停電のないくらし!」のスローガンが掲げられている

 2016年度時点で、神奈川県の年間電力消費量に対する分散型電源による発電量の割合は、13.5%まで高まっている。今後も消費地の近くで発電できる分散型の電源として太陽光発電の普及を図る神奈川県の取り組みはまだまだ終わらない。

筆者プロフィール

株式会社横浜環境デザイン 経営戦略部 秘書室 福村亜矢(ふくむら あや)

新規企画のプロモーションやイベント企画を主に担当。環境関連のエキスポの運営担当。各種メディアへのプレス、メディア対応を担当。グループ会社アドラーソーラーワークスの企画としてO&M関連の企画広報にも携わり、ドイツ連邦経済技術省下のドイツエネルギー機構(dena)が世界的規模で展開する、ドイツ発再生可能エネルギー・イニシアチブの一環として提供される日独共同のプロジェクトとして、「PVトレーニングセンター横浜」のオープニングセレモニーも開催し、成功を収める。


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