“純粋な国産AI”誕生 ハードもデータも全部日本製 スパコン「富岳」で開発
スーパーコンピュータ「富岳」で学習をした日本語特化の大規模言語モデル(LLM)が誕生した。東京工業大学と東北大学、富士通、理化学研究所、名古屋大学、サイバーエージェント、AIベンチャー企業のKotoba Technologies(東京都港区)の合同研究チームは5月9日、富岳で開発したLLM「Fugaku-LLM」を発表した。パラメータ数は130億。GitHubやHugging Faceで公開しており、研究や商業目的で利用できる。
LLMの学習にはGPUを使うのが一般的だ。しかし、世界中でLLMの開発競争が起こっており、最新のGPUを大量に入手するのは困難な状況に陥っている。そんな中、東京工業大学と東北大学、富士通、理化学研究所の研究チームでは富士通製の国産CPUを中央演算処理装置に使う富岳で、LLMの開発を進める研究を2023年5月に開始。7月には名古屋大学とサイバーエージェント、Kotoba Technologiesも参加した。
約1年の歳月を経て開発した、Fugaku-LLMの研究成果は主に2点ある。1つ目は富岳の計算・通信性能の向上だ。富岳はCPUベースのスーパーコンピュータなので、LLMを開発する上では最適化を行う必要があった。研究チームでは、深層学習フレームワーク「Megatron-DeepSpeed」を富岳へ移植してこれに対応。結果、当初は110秒かかっていた行列演算を18秒まで高速化することに成功した。
学習の際には富岳の1万3824台の計算ノード(富岳全体の約10分の1の数)で分散処理させていたため、ノード間の通信速度もより高い速度が求められた。この点については、富士通の高速ネットワーク「TofuインターコネクトD」を使うことで、当初より3倍高速化させることができたとしている。
2つ目の成果は、学習に使ったデータセットを一から独自で構築した点だ。このため、全学習工程を把握できており、透明性と安全性に優れているという。データセットのボリュームは約4000億トークン(おおよそ単語数の意)に及び、約60%が日本語コンテンツで、他に英語、数学、コードなどを含んでいる。LLMの性能指標「Japanese MT-Bench」の評価では、独自データで学習した他の国産LLMよりも高性能であり、人文社会分野では「GPT-4」に引けを取らないスコアを出したという。
研究チームをリードした東京工業大学学術国際情報センターの横田理央教授は「今回、外国製のGPUに頼らず、国産のハードウェアでAIモデルを一から開発できた。ハードウェア含め、純粋な国産AIモデルはFugaku-LLMが初めてかと思う」と成果を説明する。
GPU市場は現状、米NVIDIA一強ともいえる環境だ。今回の研究成果によって、今後“富岳でのLLM開発”が国産LLM開発において選択肢に入ってくるのか。横田教授は「非常に重要な点。他の企業もGPU開発を進めているが、開発者視点では、NVIDIA製品を使った環境が整っているので(使い続けるのが)一番楽だと思う」と話す。
一方「その居心地のいい環境を抜け出すことも重要だと思っていて、富岳はその中でもかなりチャレンジングな部類だった。しかし、結果的に今回のような成果が上がり、(課題を)克服できることを示した。これをきっかけにNVIDIA以外のプロセッサも試す流れになればいいかなと思っている」と続けた。
理化学研究所計算科学研究センターの松岡聡センター長はこの質問に対して「今回の技術については、このAIモデルに限定されるものではなく、学習という面でさまざまなAIモデルに適用できる。まだ認可はされていないし、実現できるか明言はできないが、もし“次世代の富岳”ができれば、そこにも同じ技術は適用できる。あらゆるAIモデルの学習で、汎用的なソリューションを提供できるのが今回の成果だ」と話した。
「(今回の成果は)AIを使っていかにサイエンスにイノベーションを起こしていくかという『AI for Scienbce』などの観点での根幹的な技術になる。また、各組織負担で日本における研究開発体制と、データアセットを用意できたのもの大きい。このように、今回の成果はAIモデルを一つ作っただけというわけではなく、さまざまな波及効果があると考えている。ぜひこのAIモデルを使っていただいて、Fugaku-LLMの発展に協力してもらえると幸いだ」(松岡センター長)
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
この記事の著者
関連記事
こんなメディアも見られています
ITmedia AI+に関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
経営「AIでラクして早く帰って」→社員「帰らない」 工数最大9割減のDeNAも悩むAI効率化の壁
-
2
農水省の“クソダサ”ポスター話題 「AIよりよっぽど良い」の声も 担当者に狙いを聞いた
-
3
ローカルLLM利用のクリニックが話題 院長自ら環境を構築 「医療機器より安い」は本当か
-
4
パナソニック・サムスン撤退の裏で「中国勢5割」 独IT見本市「IFA」トップが明かす舞台裏
-
5
Microsoftが進めるCopilot再編 「Microsoft Copilot」への移行で、企業への影響は?
-
6
恐るるに足らず? 中国フィジカルAI主要15社と5大集積地で見る「点と線と面」
-
7
AIへの「念のためプロンプト」はもう逆効果 Claudeのトークンを浪費する6つのアンチパターン
-
8
経営者は「AI導入」に夢中、現場は「IT環境」に疲弊 ITサポート軽視が招く時間・人件費ロスの実態
-
9
散在する“29万ファイル”をAmazon S3に集約、「AIに聞くだけ」で検索可能に――AWSはどう実現?
-
10
「足りないのはCOBOL人材じゃない」 日立が語る、AI時代のシステム刷新における“人”の役割
SpecialPR
ITmedia AI+ SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
ITmedia AI+をフォロー
あなたにおすすめの記事PR