続けて倉林さんはイラストレーターの作業過程を例に挙げる。「『神撃のバハムート』に登場するバハムートを描いていた際、試行錯誤の中で30分ごとに少しずつ構図が変わっていったことがあった。最終的には元の角度に戻ってきたが、おそらく社内に残るのは最終形態の絵だけ。そこまでの過程は上書きによって失われている可能性がある」。こうした“作られなかった可能性”にこそ重要な知見が詰まっているのではと倉林さん。
倉林さんは「世の中に出なかったプランBのほうが、むしろ重要なんじゃないかと思うようになった」と説明。選択されなかった案とその理由には、クリエイターの重要な判断が含まれている。「プランBを大量に持っているクリエイターほど優秀なクリエイターではないか。だが、今のAIは採用されたプランAだけを学習している」)
今後の課題は、この「失われゆくプロセス」をいかに保存していくかだ。倉林さんは「データを残しておくと良いことがある世の中になってきた。それが金利の複利のように、データが多く残っているとAIが活用でき、生産性が上がり、さらにデータを残す余裕が生まれる」と、正のスパイラルの可能性を示唆した。
今後、生成AI技術の基盤モデルはどう進化していくのか。倉林さんは料理の比喩を用いて「基盤モデルは料理でいうとキッチンや食材、器具のような存在になっていく。その上で、各料理人が自分の腕とノウハウを生かして素晴らしい料理を作っていく」と展望を示す。つまり、基盤技術はコモディティ化し、その活用方法こそが差別化のポイントになるということだ。
芦原さんは具体例としてモーションデータの活用を挙げる。「ファンタジーものでアクションを作るとき、通常の体形のキャラクターのモーションは撮影できる。でもドワーフも欲しい、エルフも欲しい、主人公の成長に合わせて少年期から青年期まで欲しいとなると、スケジュール的に大変になる」。こうした課題に対し、半自動的なスタイル変換技術が開発できれば、ゲーム開発のプロセスは大きく変わる可能性があるという。
ただし、そこには人間の判断が欠かせない。「ゲーム業界の中にいる人でないと、どこが“ギュッとできて”、“どこはギュッとしてはいけない”部分なのか、その判断は難しい」と金井さんは指摘する。
これを踏まえ倉林さんは「ゲーム開発の生産性を上げる、ゲームをより面白くするためのAIは、ゲーム会社の手によってのみ作られ得る」と話す。芦原さんも「ニーズがあるのも中(社内)しか分からないし、それに応えるためのデータを残せるのも中だ」と同意する。
生成AIの発展が続く中、ゲーム開発の現場ではAIと人間の新たな協業の形を模索している。面白さを生み出すのは依然として人間だが、その過程をAIが効率的にサポートする――。大規模組織での実践を通じて見えてきた、そんな現実的な活用の方向性が示された形だ。
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