このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高いAI分野の科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。
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米MITや日本のベンチャーSakana AI、米OpenAIなどに所属する研究者らが発表した論文「Automating the Search for Artificial Life with Foundation Models」(ASAL)は、人工生命のシミュレーションを自動的に探索・発見するシステムを提案した研究報告である。
これまでの人工生命研究では、生命らしい振る舞いを示すシステムの設計は、研究者の直感や試行錯誤に大きく依存していた。なぜなら、単純なルールから複雑な振る舞いが創発する過程を事前に予測することが極めて困難だからである。
ASALは、画像と言語を理解する基盤モデル(CLIPやDINOv2)を活用することで、この探索過程を自動化。具体的には3つの方法を提供する。
1つ目は「Supervised Target」で、特定の現象(例えば「顕微鏡で見た生物細胞のような」振る舞い)を示すシステムを自動的に発見する。2つ目は「Open-Endedness」で、時間とともに新しい振る舞いを継続的に生み出すシステムを見つける。3つ目は「Illumination」で、これは互いに異なる特徴を持つシミュレーションを幅広く発見する手法である。
このシステムの有効性は、Boids(群れのシミュレーション)、Particle Life(粒子ベースの生命シミュレーション)、Game of Life(セルオートマトン)、Lenia(連続的なセルオートマトン)、Neural Cellular Automata(ニューラルネットワークベースのセルオートマトン)など、さまざまな人工生命基盤で実証できた。
特筆すべき成果として、Leniaでは細胞のような生命体を、Boidsでは集団的知性を示す群れのパターンを、Particle Lifeでは自己組織化する生態系を見つけ出した。
オープンエンドの探索では、Life-Likeセルオートマトンの全空間から、時間とともに新しい現象が継続的に生まれる性質を持つルールを発見。有名なConwayのライフゲームも、このシステムによる評価で上位5%の高いオープンエンドスコアを示した。多様性の探索では、Leniaにおいて色や形の異なる多様な生命体を、Boidsにおいて群れや蛇行、渦巻きなどさまざまな集団行動パターンを発見することに成功した。
ASALの重要な特徴は、基盤モデルを活用することで、これまで定性的にしか評価できなかった現象を定量的に分析できる点である。例えば、あるシステムがどの程度「生命らしい」かを数値化したり、パラメータの変化が振る舞いにどの程度影響するかを定量的に評価したりすることが可能になった。
Source and Image Credits: Akarsh Kumar, Chris Lu, Louis Kirsch, Yujin Tang, Kenneth O. Stanley, Phillip Isola, David Ha. Automating the Search for Artificial Life with Foundation Models
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