既に各所で報じられている通り、DeepSeekが発表しているモデルやWeb版・アプリ版のチャットbotについては、中国国内の規制に対応したと思われる挙動が確認されている。
中国では国家安全保障や社会秩序の維持を目的に、生成AIに対して厳格な規制が実施されており、国の掲げる思想に合わないコンテンツを出力することは許されない。DeepSeekもこの規制に対応していると見られ、例えば中国共産党に関するネガティブな質問をすると、エラーを返すなどしてまともに反応してくれない。また政治的な話題については、反応してくれたとしても、中国政府の公式見解に寄せた回答を返してくる。
DeepSeekが中国発のモデルである以上、日本企業が採用する際には、情報管理やサイバーセキュリティ上の観点から慎重な検証が行われなければならない。ただそれは当然の話であり、そこから一歩踏み込んで考えなければならないのは、主義主張に関するモデル選択リスクだ。
いくらDeepSeekが新しい手法でAIモデルを開発していたとしても、それが特定の人間の行動を学んで生まれてくるものであることは変わらない。思想や偏見を持たない人間がいない以上、あらゆるAIモデルには一定の偏見が含まれている。
かつてChatGPTが「リベラル寄りの回答を返す傾向がある」として保守派からやり玉にあげられたことがあったが、それでも欧米的な思想の枠内にとどまっていた。しかしいまや、性能面で欧米のトップクラスのAIモデルと遜色なく、一方で価格や性質(どのように使いたいか)の面でより魅力的なモデルが、欧米以外の文化圏から登場する時代に入っているわけだ。
「社長から生成AI対応しろと言われたので、取りあえずOpenAIの製品やサービスを検討してみる」という時代はとっくに終わっている。企業は将来を見据え、マルチモデル(用途や要件に応じて複数のAIモデルを使い分ける)戦略に本腰を入れるべきだろう。DeepSeekショックがその号砲の一つであることは間違いない。
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