メディア
ITmedia AI+ >

削減工数も丸裸──Cygames、LLM活用の最新状況を公開 バグ報告・SNS分析ツールを内製CEDEC2025

» 2025年07月29日 10時00分 公開
[石井徹ITmedia]

 Cygamesが大規模言語モデル(LLM)の業務活用を加速させている。すでに社内用AIチャット「Taurus」の内製・活用を明らかにしている同社だが、ゲーム開発者向けカンファレンス「CEDEC2025」(7月22〜24日、パシフィコ横浜)では、バグ報告やSNS分析など、さらにLLM活用の幅を広げていることを明らかに。同社の金井大さん(AIテクノロジー専門役員)や都築圭太さん(同エンジニア)が登壇し、それぞれの取り組みでどれだけの工数を削減できているかも公開した。

23年に開始、Cygamesの生成AI研究活用

 Cygamesは2023年4月に、生成AIの活用に向けた組織「生成AI活用委員会」を発足。ガイドラインを策定し、全スタッフ向け研修も実施するなど、導入や検証を進めていた。

 ただし、同委員会のメンバーがいずれも他業務との兼務で、AIの研究を進めにくい問題があったため、24年2月には新たに専門組織として「AIテクノロジー」を設立。同組織はテキスト処理の効率化ツール開発を担当する「LLMチーム」や、画像・動画生成AIを研究する「クリエイティブチーム」など4つのチームからなり、それぞれAIを活用したツールの開発や研究、その利用推進を手掛けている。

LLMでバグチケット作成を効率化 4万トークンで十分な精度

 AIテクノロジーの活動もあり、同社では現在、3つの分野でLLMの活用や検証が進んでいるという。

 まずはバグチケット作成の自動化だ。同社が運用するゲームのデバッグ作業では、バグ報告時に発生箇所、再現手順、正しい挙動など複数項目を記入したチケットを作成しなければならない。しかし、チケットの内容は過去のチケットと類似しているケースも多い。この類似部分をLLMで自動補完できれば、作業を効率化できるのではないかと考えた。

 そこで、同社は約11万行(215万トークン)の過去チケットデータを参照できる「RAG」(Retrieval-Augmented Generation、検索拡張生成)を構築しようと考えた。RAGとは、データをLLMに参照させることで、回答の精度向上を図る手法のことだ。

 ところが構築に向けてデータを精査していくと、意外な発見があった。わずか約2300行(4万トークン)、当初の2%程度のデータを事前にLLMにプロンプトとして与えておくだけで、十分な品質の出力が得られたのだ。出力形式を指定するプロンプトも「チケットに記載する項目の概要」「文体のルール」「カテゴリーごとの確認手順」「過去のチケット例」だけで十分だった。

 実際のツールはAWSのコンテナアプリケーションサービス「App Runner」やストレージ「S3」で提供。2025年1月から5月にかけて、4タイトルで合計283件の利用があり、1件当たり5分かかっていたチケット作成時間を2分に短縮できた。RAGや複雑プロンプトエンジニアリングが不要になり、実装工数も大幅に削減できたという。

約4万件のSNS投稿を感情分析 削減工数は……

 2つ目の事例はSNS投稿の感情分析だ。SNSやプラットフォームレビューには、ゲームに対するユーザーの感想があふれている。どの要素に対してどんな感情を抱いているかを把握できれば、タイトル改善の貴重なヒントになる。とはいえ、人手での分析には膨大な時間がかかる。

 そこで同社はまず、投稿全体もしくは話題ごとにポジティブ・ネガティブ・ニュートラルといった感情をラベリングした投稿データ100件を用意。これをLLMにプロンプトとして与え、投稿の分類に活用することにした。例えば「アクションが楽しい。マッチングに時間がかかるけどおすすめ。シナリオも熱い」という投稿なら、全体をポジティブと判定。操作感とシナリオをポジティブ、マッチングをネガティブと分類させるイメージだ。

 実際に900件以上の英語投稿を含む3万8750件のデータ分析で活用したところ、投稿全体の感情分類で86.5%、話題別の感情分類で81.5%の正答率で分類できた。手動で行う場合は1分当たり20件というペースのため、約33時間分(4日分相当)の作業時間を削減できたという。

画像「なぜNGか」をAIでチェック

 3つ目は画像の倫理チェックだ。これまで画像コンテンツの倫理面や文化的配慮のチェックは専門チームが目視で確認していたが、マルチモーダルLLMの画像入力機能を活用し、リスクの程度やその理由を自動で分析できないか検証している。

 例えば骸骨のイラストを入力した場合「地域によっては骸骨が不適切である」という詳細とともに「他の表現に置き換えられませんか」という対応方針まで出力される──といったチェックツールを開発し、検証を進めている。他の取り組みのように定量的な結果は出ていないが、事前のプロンプトに沿ったチェックが可能なことを確認しているという。

「無駄を減らしクリエイターの力を引き出すことが重要」

 セッションでは、Cygamesによる各種チャットAIサービスの定量的な活用状況も明らかに。同社は現在、Taurusといった内製ツールに加え、ChatGPT EnterpriseやGeminiを活用。このうちChatGPT Enterpriseは1000アカウントを、Geminiは全社に展開している。

 1カ月当たりの利用回数もそれぞれ公開。5月の利用回数は、Taurusが5万3664回、ChatGPTは7万551回、Geminiは2万7136回で、およそ全社員が1日に2回は何らかのAIチャットツールを使っている計算になるという。ただし、TaurusはAPIのリクエスト数を基に計算しており、1回の利用で複数回のリクエストが発生するケースもあるため、あくまで参考値としている。

 「現時点で、生成AIはクリエイターを代替する万能なものではない。無駄を減らしてクリエイターの力を引き出すことこそが重要」(金井さん)

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

アイティメディアからのお知らせ