クマ遭遇AI予測マップでは、地図と同じページ内に地域ごとの予測精度も表示している。AIが予測した場所でクマに出遭った割合を示す「適合率」と、クマに出遭った場所をAIが正しく予測できていた割合を示す「再現率」が、遭遇リスクごとにどう変化するかグラフを掲載している。
深澤准教授によると、クマとの遭遇リスクが高くなると、適合率は上がるのに対し、再現率は下がる傾向があるという。再現率の低下は、AIがクマとの遭遇を“見逃す”ことを意味する。「見逃すのが一番まずい」(深澤准教授)として、「高い」「やや高い」と表示される地点まで警戒することを推奨した。
また、クマ遭遇AI予測マップは、あくまで注意喚起を目的とする。深澤准教授は各自治体の最新情報を優先して参照するよう呼び掛けた。
実際、クマ遭遇AI予測マップを運用するなかで、予測が的中するケースも出てきている。秋田県では、9月までのデータでハイリスクと予測していた場所で、10月中にクマとの遭遇を複数確認した。また「山の裾と川に囲まれているエリア」では、新潟県や岩手県でクマとの遭遇事例があったという。
一方、マップ化する際の課題も見えてきた。例えば、クマとの遭遇件数が少なく、地形などの環境条件が画一的な地域では、AIが全体をハイリスクと予測してしまう場合がある。「予測の精度を確認し、出すかどうかを決める」(深澤准教授)として、予測が機能しない一部の地域は、マップの公開を見送った。
こうした基準のもと、現在マップを公開中の18地域で、対応可能なものは全て対応したという。今後は同地域でデータを適宜更新していく方針だ。
なぜ、クマ遭遇AI予測マップを公開したのか。深澤准教授は、その理由を「社会実装しないと誰も使わない」と語る。
クマ遭遇AI予測マップのもとになったのは、深澤准教授が9月にプレスリリースを出した論文だ。この論文では、秋田県に焦点を当て、クマとの遭遇リスクを予測した。秋田県のメディアから論文の取材を受けた際「社会実装はしないのか」との意見をもらったという。
深澤准教授は、大学教員として働く以前、NTTドコモで働いていた経験を持つ。その際、携帯電話の位置情報などを使って作成する人口統計情報「モバイル空間統計」に携わっており、データサイエンスによって得たデータをさまざまな顧客に提供していた。
こうした経緯から「やっぱり皆さんにリーチする方が良い」と思い立ち、急きょマップ化に踏み切ったという。「もともと研究としては、秋田県以外にも広げていくため、他県にも取り掛かろうとしていた。そこで、どうせなら同じモデルで社会実装できないかと思いやってみた」(深澤准教授)
深澤准教授は今後、クマ遭遇AI予測マップの予測精度を上げるとともに「なぜその地点のリスクが高いか」を説明できるようにしたいと述べる。マップのもとになった論文では既に、クマに出遭いやすい場所の特徴を分析できている。他の専門家の意見も取り入れながら、例えば「クマの動線があるから危険」のような理由付けができるAIの開発を目指す。
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