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AIが330年来の数学難問「接吻数問題」で“人類超え” 膨大な計算量を効率化 中国チームが発表Innovative Tech(AI+)

» 2026年01月28日 12時00分 公開

Innovative Tech(AI+):

2019年の開始以来、多様な最新論文を取り上げている連載「Innovative Tech」。ここではその“AI編”として、人工知能に特化し、世界中の興味深い論文を独自視点で厳選、解説する。執筆は研究論文メディア「Seamless」(シームレス)を主宰し、日課として数多くの論文に目を通す山下氏が担当。イラストや漫画は、同メディア所属のアーティスト・おね氏が手掛けている。X: @shiropen2

 中国の北京大学や上海科学智能研究院などに所属する研究者らが発表した論文「Finding Kissing Numbers with Game-theoretic Reinforcement Learning」は、開発したAIを用いて高次元幾何学の難問「接吻数問題」に挑んだ研究報告だ。

 1694年、アイザック・ニュートンとデイヴィッド・グレゴリーは「ある単位球(半径が1の球)の周りに重ならずに接触できる単位球は最大何個か」という問題を考えた。これは接吻数問題と呼ばれ、後にn次元空間へと拡張し、高次元幾何学における根本的な難問として3世紀以上にわたり数学者を悩ませてきた。

接吻数問題における2次元の回答(Wikipediaより引用

 厳密な答えが判明しているのは1次元の2個、2次元の6個、3次元の12個、4次元の24個、8次元の240個、24次元の19万6560個などのみで、それ以外は下限値しか分かっていない。次元が上がると幾何学的な複雑さと配置パターンの組み合わせが爆発的に増大するためだ。

 研究チームは、この問題に挑むAIシステム「PackingStar」を開発した。従来のAIは球の座標を直接扱っていたが、次元が高くなると計算が不安定になるという問題があった。その結果、Google DeepMindが開発したAI「AlphaEvolve」でも11次元で1個だけ記録を伸ばす程度にとどまった。

 PackingStarはこれを避けるため、球同士の角度関係だけを記録した行列を使うアプローチを採用した。また2つのAIエージェントが協力し、一方が表を埋めて球を増やし、もう一方が悪い配置を見つけて修正する仕組みを導入。この「埋める役」と「直す役」の協調により、膨大な探索空間を効率よく調べられるようになった。

PackingStarの処理フロー

 結果は、25次元から31次元の全てで人類の記録を更新した。中でも25次元で見つかった配置は、リーチ格子と呼ばれる美しい数学的構造と深く関連しており、単なる数値上の記録更新にとどまらず、これがこの次元における最適解である可能性が高いと考えられている。

PackingStarが25〜31次元で従来記録を更新

 13次元においては、球同士の角度が全てきれいな分数で表せる「有理構造」という条件の下で新しい構成を発見した。14次元では6000種類以上の新しい配置パターンが見つかった。

Source and Image Credits: Ma, Chengdong, et al. “Finding Kissing Numbers with Game-theoretic Reinforcement Learning.” arXiv preprint arXiv:2511.13391(2025).



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