柔道金メダルの石井慧選手が実践――「女々しい自分」を克服した4つの技【前編】「気弱な自分」をプラスに変える(2/2 ページ)

» 2008年10月28日 08時00分 公開
[平本あきお(構成:房野麻子),ITmedia]
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ステップ2:気持ちを完全に出し切る

 3者の立場の想いを十分言い終えたら大きく伸びをします。そして三角形の位置から出て、3者が見渡せる場所に来てもらいました。

 「あそこに1人の人間が、3つの全く異なる意見を聞いていますが、端から見ていて、どう見えますか?」と聞くと、石井選手は「結構笑えますね」と言いました。「あんな状況で、練習がちゃんとできて、強くなって、勝てると思いますか?」。そうと聞くと「いや、それは無理ですね」と本人は答えました。

 まず大事なのは、私たちの中には矛盾している自分がいることに自分自身で気づくことです。皆さんも思い当たることがないですか? 新しいプロジェクトを立ち上げるような時に、「よし、やろう!」とがんばろうとする自分と、「でも、こんなの無理だよ」とダメ出しする自分、「やっても大して変わらないよ」と妙に冷めた自分というように、自分がどうしたいのか分からないということがありませんか。それと同じで、ステップ1では、石井選手自身の中で3人の自分が葛藤していることをハッキリさせました。

 矛盾する3者に気づいたら、次のステップ2に移ります。

 ステップ2では、3つの立場を分けて、徹底的に再体験してもらいます。普段は3者が頭の中でごっちゃごちゃになっているから、最初は何が何だか分からなくっているのです。そこで、ハッキリと分けて、3者の気持ちを完全に出し切りました。「よし、やろう!」「でも、こんなの無理だよ」などの発言を4、5回繰り返しました。ここで大事なのは、自分が納得するまで言って出し切ることです

ステップ3:「結構笑えますね」――滑稽さに気づく

 出し切ったら、さらに次のステップ3に移ります。

 ステップ3では、腹の底からその滑稽さに気づいてほしいのです。「やっぱり女々しい自分の言う通りだよな」と思ってしまうようでは、まだ気づいていません。「確かにこれは変だな」と気づくまで、このステップ2を続けます。

ステップ4:「女々しい自分」は「したたかな自分」――対立する自分も味方に

 ステップ3で滑稽さに気づいたら、初めてステップ4に進みます。ここでは三角形の外から見て、この3者があえて自分の味方だとしたら、どんなことを言っているかを聞きます。

 石井選手の場合、女々しい自分が味方だったとしたら「とにかく勝ちにこだわって、相手のよさを出させるな」「1本を取るよりも、しっかりポイントを取って絶対負けないようにしろ」「そのための研究を惜しむな」という内容の発言をしました。そこで、「女々しい自分」を一言でどんなふうに言い換えられるかと聞くと、「したたかな自分」だと答えました。

 次に、飼い犬みたいな自分が味方だとしたら何と言うかを聞くと、「何が起こっても何があっても、どんな練習でも耐え抜け」「どんな状況でも我慢しろ」「がんばり抜け、貫き通せ」といった発言でした。

 そして、「飼い犬みたいな自分」をどんな自分に言い換えられるかを聞くと、「辛抱強い自分」と言いました。

 同じように、自分らしい自分についても、もう一度外から見ます。自分の味方だとしたら、という問いかけに、「日本の柔道でもなく、ヨーロッパの柔道でもなく、自分の柔道をやれ」という発言が出て、「自分らしい自分」を言いかえると、「なりふり構わない自分」という言葉になりました。

 以上のように、3者が自分の味方だとしたら言う言葉に言い換えて、それぞれのタイトルも付け直しました。そして紙も、「したたかな自分」「辛抱強い自分」「なりふり構わない自分」と書き直します。


 次回は続きを見ていきます。

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ピークパフォーマンス 代表取締役

平本あきお(ひらもと あきお)

 1965年神戸生まれ。東京大学大学院教育学研究科修士課程修了(専門は臨床心理)。アドラースクール・オブ・プロフェッショナルサイコロジー(シカゴ/米国)カウンセリング心理学修士課程修了。人の中に眠っている潜在能力を短時間で最大限に引き出す独自の方法論を平本メソッドとして体系化。人生を大きく変えるインパクトを持つとして、アスリート、アーチスト、エグゼクティブ、ビジネスパーソン、学生など幅広い層から圧倒的な支持を集めている。最新著書は、『すぐやる! すぐやめる!技術 ― 「先延ばし」と「プチ挫折」を100%撃退するメンタルトレーニング』。コミュニケーションやピークパフォーマンスに関するセミナーはこちらから。


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