「有給休暇を使い切ったことなんてない」。年次有給休暇を消化できない理由は、職場の雰囲気にあった?
先日も記事で取り上げたが、米国、英国、フランスなど11カ国の有職者を対象に行った調査では、日本人の年次有給休暇平均取得率は最低だったという。「景気悪化でさらに有給休暇が取りにくくなった」「せっかく有給休暇を取っても、休む分の仕事を残業で補っている」といった声も聞く。5月の総務特集では「有給休暇」と「残業」の実態、そして企業の取り組みを例に有給休暇と残業の攻略法を探っていきたい。まず初回は有給休暇の消化について取り上げる。
有給休暇を使い切ったことありますか?――こんな質問をすると、多くの人から「いいえ」という答えが返ってくる。
ただし「会社を辞める前に消化した」という話はよく聞く。転職経験のある筆者もこれにあてはまるが、これ以外に有給休暇を使い切る機会はなかった。当たり前に付与されているが、使うだけでどうしてハードルが高くなるのだろう。
そもそも有給休暇は、
などと定められている。
かみ砕いて言うと、休みだけど普通に賃金がもらえ、休んだ分の給料が引かれたり、不利益な扱いをされない権利が、一定期間継続して働いた人に与えられるということ。本来なら与えられた日数をすべて使ったとしても、後ろめたく思う必要はどこにもない。しかし厚生労働省の調べによれば、2007年の労働者1人あたりの年次有給休暇の付与日数(平均17.8日)のうち、取得日数は8.5日と半分も取得していない状況だ。
これほどにも取得できない理由は何なのか。そこには労働者の気持ちに問題があるようだ。
2008年度の調査によると、労働者の約3分の2は、年次有給休暇の取得に「ためらいを感じている」。逆に「まったくためらいを感じない」労働者は、8.3%ときわめて低い数値で、「あまりためらいを感じない」と答えた労働者と合わせても「ためらいを感じない」割合は、全体の約3分の1程度にすぎないのだという。
「ためらいを感じる」理由としては、「みんなに迷惑がかかる」「後で多忙になるから」。ほかの人の仕事が増えたり、後で自分が忙しくなってしまうのならば、あまり休まない方がいいのではという気持ちになってもおかしくない。そして「職場の雰囲気で取得しづらい」「上司がいい顔をしない」「昇給や査定に悪影響がある」といった気になる答えもあった。
反対に「ためらいを感じない」理由としては、「職場の雰囲気で取得しやすい」「当然の権利だから」「効率的に仕事ができる環境だから」「仕事に影響を生じないから」「上司・会社から休むように言われている」で、やはり仕事の忙しさよりも職場の雰囲気が、「ためらいを感じる/感じない」を左右するようである。
具体的にためらいを感じるシーンはどんなものか考えてみた。
一例にすぎないが確かにこんな状況では休みづらい。有給休暇を取得したとしても、その大半が休まざるを得ないときのみに集中してしまいそうだ。
例えば1年間で有給休暇取得の平均日数である8.5日を取得したとする。そのうち3日は体調不良などで消え、残りは法事、引っ越し、子供の卒業式、入学式などどうしても外せない用事で使う。毎年こんな行事ばかりがあるわけではないだろうが、こんな使い方が重なるとさすがに「なんのために有給休暇ってあるんだろう」という気分になってくる。だから、もう出社しないからためらいを感じない「会社を辞める前」の有給休暇取得が、現状では最適なのかもしれない。
日本は諸外国に比べ祝日など公休が多いものの、決してリフレッシュやレジャーばかりに使われず、“休暇の使い方が下手”とも言われている。それにいくら祝日があっても、ゴールデンウィークなど日本のほとんどの人が同じ時期に休むことで、観光地などは混雑し、まったく出掛ける気もなくなってしまう。
そんな中、政府が観光市場拡大に向け、自治体が独自に設けている休日を、土曜や日曜につなげて連休にするなどの「休日改革」の検討を始めたと報じられた。取得率が減少傾向にある有給休暇の取得促進策も併せて講じるという。
対策の中には、労働者が残した有給休暇の残日数を金銭評価して、事実上買い取る制度を作り、その分を引当金として、企業の負債として計上する会計基準を改正するなどの案も浮上しているとか。
不況と言われるこのご時世、企業側としてもコスト削減やワークシェア推進を図るため、残業をなくしたり、もっと休暇を積極的にとってほしいという背景がある。有給休暇の取得率が上がることは、企業、労働者双方のメリットになるのだ。
少しでもためらいを感じる雰囲気があるのなら、会社全体(もしくは部門全体)で見直す必要があるかもしれない。今回の特集では、そのためらいを消すための環境作りについても考えていきたい。
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