「おまえが講師をやってくれ」と言われたら(前編)プロ講師に学ぶ、達人の技術を教えるためのトーク術(2/2 ページ)

» 2009年08月04日 14時30分 公開
[開米瑞浩,Business Media 誠]
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第4条:できるだけピンマイクを使うこと

 ある程度大人数になるとマイクが必要になります。その時、ハンドマイク(カラオケ屋さんのボーカルマイクのように手に持って使うもの)と、ピンマイク(襟元にクリップで留めて使う小さなマイク)を選べる場合は、できるだけピンマイクを使いましょう。

 講師に慣れない間は、手に何か持っていないと不安に感じることがあるので、その不安が強いようならハンドマイクでもかまいません。しかし基本的には両手が自由になるピンマイクの方が便利です。

 というのも、両手が自由になるだけに、ジェスチャーをつけやすいからです。

 講師をする場合、「ジェスチャー」を豊富に使うのは必須と言っていいぐらい重要なことです。その邪魔になるような要因はできるだけ排除しておきましょう。

 実際わたしが初めて100人ぐらいの大集団の前で講演会を行ったときは、少々苦労しました。その時は講師経験も浅かったので、講演のシナリオを片手に持って話そうとしました。片手にシナリオ、片手にマイクとなると、両手がふさがってしまいジェスチャーができません。極力ピンマイクを使いましょう(会場によってはハンドマイクしか用意していないこともあるので、その場合は仕方がありません)。

第5条:レーザーポインタではなく指示棒を使うこと

 今は大抵どこの研修会場に行っても、赤や緑のレーザーでスクリーン上の1点を指示できるレーザーポインタがあります。でもこれは使わないことをオススメします。代わりに昔からある伸縮式の指示棒を使ってください。

 その理由は、「レーザーポインタは、指示する位置のコントロールが難しい」からです。

 スクリーン上の1点を指示して話をする場合の理想的な手順はこうなります。

  • スクリーン上から、指示したい1点を探してそこにカーソルを当てる
  • カーソルをそこにキープしたまま、受講生の方を向いて話をする

 「カーソル」というのは、レーザーポインタならレーザーの光点、指示棒なら棒の先端部のことです。レーザーポインタを使ってスクリーンの横から正確な位置を指示するのは難しいので、それをしようとすると常時スクリーンを見て手元のポインタの角度を微調整し続けなければいけません。「受講生の方を向いて話をする」ことが難しいわけです。指示棒はこれが簡単にできるので、極力指示棒を使いましょう。

 「相手のほうを向いて話をする」というのはプレゼンテーションとティーチングに共通する「話し方の鉄則」です。それを邪魔するような要素は排除しておきましょう。

第6条:発声練習をしておくこと

 講師経験が豊富な人でも発声練習をしていない場合がありますが、これは絶対やっておきましょう。「声」は「人の信頼感」を左右する大きな要因です。大きな声でハッキリとした発声でしゃべるだけで、「この人の言っていることは信用できそう」と思われるもの。講師をするときには特に重要です。もちろん、講師業務に限らずあらゆるビジネスコミュニケーションで、その「信頼感」が生きてくることは想像がつきますね。

 その「発声練習」にも大まかに3つの種類があります。第1に、大きな声を出すこと。第2に、ハッキリと発音すること。第3に、口調、声色を使い分けられるようにすることです。

 第1の「大きな声」については、スポーツをするわけではないので絶叫調は必要ありません。目安としては、30人ぐらいまでならマイクなしでも聞こえること。そのぐらい大きな声を出すことを目指しましょう。ちなみに、わたしが講師をする場合、初めに講師紹介をしてくれる研修事務局の担当者に比べるとわたしの声の大きさは3倍から5倍ぐらい大きく聞こえると言われています。

 第2の「ハッキリと発音すること」は要するに滑舌をよくしましょう、ということです。講師が何をしゃべっているか受講生に分からないのでは話になりません。大きな声を出すことと、滑舌をよくすることが必要なわけです。といっても講師というのは役者やアナウンサーのように「声そのもので稼ぐ」仕事ではありませんので、こっそり本当のところを言うと……滑舌がよくならなくても大丈夫……です。

 どういうことかというと、滑舌をよくする練習をすれば、自分が苦手なところが分かりますよね。苦手なところが分かったら、その発音をするときには「ゆっくり、何回も言う」ようにすれば、解決してしまうのです。

 役者やアナウンサーにはそれは許されませんが、講師ならそれで大丈夫! 要するに受講生が聞き取ってくれれば勝ちですし、ゆっくり言うほうがよく通じます。気楽に考えてください。

 第3の「声色」というのは、例えば誰か他人の発言を引用するときに使います。「○○元総理大臣は、『…………』と語っていました」のように、他人の言葉を引用するときには、そこを自分の普段の声色とはハッキリ変えてしゃべると効果的です。

 別にものまね芸人ではないので、「○○元総理大臣の声」そのものを真似る必要はありません。「あ、ここだけ口調が違うな」ということが分かれば十分です。

 例えば高い声や低い声、弱々しい声と力強い声など、何種類かハッキリした違いのある声色を使い分けられるようにしておきましょう。意識して練習してみれば意外に簡単にできるものです。逆に、練習しておかないとなかなかできません。

 既に書きましたが、講師経験が豊富な人物でもこの発声練習をしていない、ということがよくあります。それぐらい見落とされがちなので、初めて講師をしようというときに、これに気がついて練習する人はおそらくほとんどいないでしょう。でも、やるだけの価値は間違いなくあります。ぜひやってみてください。

 それでは、「初めて講師を務める人のための10カ条」後編は次回に続きます(後編はこちら)。お楽しみに。

筆者:開米瑞浩(かいまい みずひろ)

 IT技術者の業務経験を通して「読解力・図解力」スキルの再教育の必要性を認識し、2003年からその著述・教育業務を開始。2008年は、「専門知識を教える技術」をメインテーマにして研修・コンサルティングを実施中。近著に『ITの専門知識を素人に教える技』『図解 大人の「説明力!」』、『頭のいい「教え方」 すごいコツ!』



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