会話が途切れて沈黙になってしまうのがとにかく怖い。相手の顔色をうかがいながら質問してみたり、自分の話をしてみたり。クタクタになるまで会話を盛り上げる努力をしている。けれど、打ち解けられた感じがしない。どうすればよいのだろう?
本連載は、2014年1月25日に発売した水島広子著『対人関係療法のプロが教える 誰と一緒でも疲れない「聴き方・話し方」のコツ』(日本実業出版社刊)から一部抜粋、編集しています。
「コミュニケーション上手」というと、場を盛り上げて輪の中心になれるような人、と思いがちです。しかし、コミュニケーションとは、本来「目的に応じて相手とやりとりすること」。
そのため、「盛り上げ上手=コミュニケーション上手」と考えていては、いつまで経っても本当のコミュニケーション力は磨かれません。本書では、どんな質問がよいのか、どういうリアクションがよいのか、というスキルの話ではなく、安心して心を開ける環境をつくる方法などの「コミュニケーション上手」の本質を磨くコツを紹介します。
「話す力」がほしいと思っている人の中には、「沈黙が嫌だから」という人も少なくないと思います。沈黙を埋めるために、とにかく話し続けようとするのです。
しかし言葉は、決して、沈黙を埋めるための道具ではありません。何かを伝えるための手段なのです。確かにコミュニケーションの目的の1つには「時間を共有する」というものがありますが、それは時間の共有の仕方として「おしゃべり」をするということであって、それ以外にも、何らかの作業を一緒にしたり、ただ沈黙して温かい雰囲気で一緒にいたり、何かを見て共に笑ったり、というのも、とても豊かな時間の過ごし方です。
「今日はいいお天気ですね」などと言ったきり、静かに一緒に歩くのも、味のあることですね。沈黙を怖れている人はとても多いのですが、沈黙の何が嫌なのかをよくよく聞いていくと、「自分のコミュニケーション力が低いと思われるから」「つまらない人間だと思われるから」というところに集約されるように思います。「気の利いた話もできない人間だと思われるのが嫌」といったところでしょう。
しかし、本当のコミュニケーション力を身に付けるためには、また、つまらなくない人(一緒にいたいと思われる人)になるためには、「沈黙に強くなる」ことが必要なのです。
なぜかと言うと、「今、自分は何のためにコミュニケーションしているのだろうか」という目的意識があって初めて適切なコミュニケーションができるのですが、特に目的がなければ沈黙していることが適切である場合も多いからです。
そんなとき、単に沈黙を言葉で埋めても、「コミュニケーション力」が高いと思われるどころか、相手からは「つまらないことばかりうるさく話し続ける人」に思われたり、「余計な詮索をする人」に見られたりしかねません。実際に、無意味なことを話し続けるというのは、相手から静寂や時間を奪うことでもある、ということは忘れないでいたいものです。
実は、沈黙になっても落ち着いていられるようになることが、「話す力」の基本だと言えます。「話す力」の基本が「沈黙を味わえる」というのは矛盾して感じられるかもしれませんが、沈黙を怖れなくなれば、時間を埋める道具として会話を垂れ流すのではなく、必要なときに目的に応じたことを話せるようになれます。つまり、コミュニケーション力の高い人になれる、ということなのです。
いわゆる「大物」と呼ばれる人たちも、案外沈黙しているものですね。言葉を無駄に使っていないことがよく分かります。まさに、一言一言に重みがあるのです。そういう「大物」に比べてみると、ペラペラと無意味なことで沈黙を埋めている人は、どうしても「小物」「余裕のない人」に見えてしまいます。
ですから、まずは自分がリラックスして沈黙を味わいながら、相手の様子を見る、ということをしてみてもかまわないのです。相手は話したいことを話し始めるかもしれませんし、何を話したいかの手掛かりをくれるかもしれません。あるいは相手もリラックスして沈黙を楽しんでいる様子が分かるかもしれません。
ここで重要なのは「自分がリラックスして」という部分。「どうしよう、沈黙になってしまった。何か話さなきゃ」と焦っていると、それが相手にも伝わって負担をかけてしまいます。「重い」「気まずい」と感じられるのは、こんなタイプの沈黙です。
一方、こちらが沈黙に強ければ、こんな状況でもゆとりを持っていることができます。そして、そのゆとりは「よい雰囲気」として相手にも伝わっていくのです。
そもそも、沈黙が生じるのは自分だけの責任ではありません。また、相手が沈黙をどう思っているのかも本当のところは分かりません。相手はただ静かにしていたいのかもしれないのです。コミュニケーションは、やりとりなのですから、「沈黙が怖い」というこちらの感情を一方的に押しつけるようでは、よいコミュニケーションになるわけがないですね。
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