苦しさのなかにどっぷりはまると、あせる自分に飽きていくあせらない練習

胸の内に自然とわきあがった「感情の波」は、心に留めておくよりも、流れに任せて一気に放出させたほうがいい。わき上がる喜怒哀楽の感情をとことん味わい尽くすと、心はスッキリします。

» 2014年07月07日 11時00分 公開
[斎藤茂太,Business Media 誠]

集中連載「あせらない練習」について

本連載は、斎藤茂太著、書籍『あせらない練習』(アスコム)から一部抜粋、編集しています。

休みなしに働いているわりには成果が上がらなかったり、あれもこれもと欲張ってやるわりには何もモノにできなかったり――。周囲に振り回されて自分自身を見失っている人、あなたの周りにもいませんか? そういう人の心の中には、いろいろな情報や思いがグチャグチャとあるだけなのかもしれません。

 ・頭のなかのあせりは、脳を休ませるとだんだん消えていく
 ・「その場しのぎ」をやめれば、あせる気持ちから解放される

不安やイライラは、ちょっとした心の練習でなくなります。あせらないで頭と心さえスッキリさせれば、筋道の通った思考と気持ちの整理もきちんとでき、目的別にゆったりと行動することができるようになります。

本書では、どうしてもあせってしまいがちな人の頭と心をスッキリさせる練習方法を、心の名医であるモタ先生の幸せメソッドにならって紹介します。


 「波に乗る」という意味では、感情をガマンしないことも大切です。

 胸の内に自然とわきあがった「感情の波」は、抑えつけて心に留めておくよりも、流れに任せて一気に放出させてしまったほうがいいのです。

 例えば、胸を締めつけるような苦しい出来事があったとします。あなたなら、どうしますか? なかには、「苦しみを忘れようと努力する」人がいると思います。

 でも、忘れようと思えば思うほど、思い出さずにはいられないでしょう? 忘れるために思い出してしまうというか、忘れる努力は苦しみの底なし沼に足を突っ込むようなものなのです。

 また、苦しみから逃げるために、お酒を飲んだり、運動をして汗を流したりする人も多いでしょう。

 確かに、一時的な気晴らしにはなります。ただ、苦しみからそう簡単に逃れることはできません。完全に解放されることなく、また追いかけられるのがオチです。

 このように、心にどっしり重い苦しみというのは、忘れようとすれば思い出し、逃げようとすると追いかけてくる――、そういうものなのです。

 失恋だってそう。愛しい人が自分のそばからいなくなってしまうのはつらく、苦しいことながら、「彼のことはもう忘れよう」と思うと、思い出が次々とよみがえってきませんか? 忘れようとすることは、すなわち、思い出すことでもあるのです。

 また、「別れたら次の人」とばかりに、新しい恋を求めたところで、幸せにはなれません。なぜなら、心はまだ彼への未練がたっぷり。ついつい、「彼のほうがよかった」と、失恋の悲しみに追いかけられることになります。

 そんなときに一番いいのは、苦しみの波のなかにどっぷりとはまってしまうことです。苦しみを味わい尽くすのです。忘れたり、逃げたりするよりつらい時間となりますが、そのことだけを考えていると、苦しみそのものがやがて消えていくことを、私が請け負いましょう。

 最初のうちはおそらく、苦しみを引き起こした行為を反芻(はんすう)しては、自らを悔いたり、周囲を恨んだり、その苦境からどう立ち上がったらいいか途方に暮れたり、さまざまな問いかけが起こり、頭のなかがぐちゃぐちゃになると思います。

 でも大丈夫、そのうち苦しむこと自体に飽きてきます。というか、苦しみが消化されて、苦しんでいる自分に対して他人事のように、

「こんなことをしている場合か」

 と思い始めるのです。

 ここまでくれば、シメタもの。苦しみの波がゆっくりと、沖を見渡せる海上へと押し上げてくれます。そこに必ず、活路が見出せるのです。

 こういう経験を何度かすると、精神力がタフになります。スポーツ選手が体をいじめ抜いて筋力・体力を高めていくのと同じで、心が苦しみを味わい尽くすことによって強靭になっていくのです。

 悲しいときも同じ。とことん悲しめばいい。つらいときは、「つらい、つらい」ととことんうずくまればいい。逆に、嬉しいときはとことん喜ぶのみ。感情の波に潜り込めば、意外と早く精神の昂揚(こうよう)はおさまり、平常心を取り戻せます。

 また、こうして喜怒哀楽の感情をわきあがるがままにとことん味わい尽くすと、心はスッキリします。思い出すことも、追いかけられることもなくなります。喜怒哀楽の感情は中途半端に処理せず、とことん味わい尽くすこと。それが、人生のよい波を呼ぶ秘訣でもあります。

(次回は、「逆境を喜ぶ」について)

 →連載「あせらない練習」バックナンバーはこちら

著者プロフィール:

斎藤茂太(さいとう・しげた)

1916(大正5)年に歌人・斎藤茂吉の長男として東京に生まれる。医学博士であり、斎藤病院名誉院長、日本ペンクラブ理事、日本旅行作家協会会長などの役職を歴任。多くの著書を執筆し、「モタさん」の愛称で親しまれる。「心の名医」として悩める人々に勇気を与え続け、そのユーモアあふれる温かいアドバイスには定評があった。2006(平成18)年に90歳で亡くなったが、没後も著作は多くの人々に読み継がれている。


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